防災無線の盲点


1.はじめに

 地域防災の為に使用されている防災無線ですが、最近になってその使用されている
周波数帯に起因する盲点が見つかり、問題提起されています。
(当時、新聞記事にもなりましたが、記事が掲載された新聞が手元になく、私の記憶に
より本コンテンツを作成しています。)


2.発見のきっかけ

 今から2年程前だったと思いますが、山形県内のある地域での事です。
 防災訓練があり、防災無線の放送を合図に避難訓練を行うという想定だったそうです。

 ところが予定の時間になっても防災無線による放送が作動せず、放送を待っていた
住民は避難を始める事が出来ず、関係者が別ルートで連絡を取り避難を開始したとの
ことです。

 これでは非常時に問題になるという事で業者に調査を依頼したそうです。


3.原因調査の結果は

 私は新聞記事でこの事件を知り、阪神淡路大震災時にあったような、放送施設の
バックアップバッテリ切れ(正確にはバッテリの寿命でしょうか。いくらなんでも
1次電池ではなく充電式の電池を使用していると思います。)ではないかと思い、
「またか・・・」と思っていました。

 ところがしばらく後の新聞記事に原因に関する記事が掲載されました。

 それによると

「不定期に発生する強力な電離層により海外の放送電波が到達し、

その電波により防災無線が妨害を受けていた」

というもの。
 記事によると妨害となった電波の強さは、本来の信号よりはるかに強い電波だったと
いう事です。

 私もアマチュア無線を趣味に持っていますので、この記事が何を意味しているのか
すぐに気がつきました。



 詳細を説明します。
 
 防災無線に使用されている周波数はおおよそ50MHz(メガヘルツ)から60MHzです。
 そしてこの周波数は、海外(特に日本海を挟んだアジア各地)ではFM放送やTV放送に
使用されています。

 通常は直接電波が届く事もなく、また電離層で反射する事もない為互いに妨害しあう事は
ありません。

 しかし、春から秋にかけて時々発生する「スポラディックE層」という電離層だけは例外で
これらの電波も反射してしまいます。

 我々アマチュア無線家はこうした電離層を利用し、遠くの無線局と交信するのを楽しみに
しているのですが、実際にはVHFのTV放送が妨害を受けたりする問題も起っています。

 防災無線も例外ではなく、海外の強力なTV電波との関係もあり妨害を受けてしまうのです。


(解説)電離層とは
 地球上の周囲をとりまく電離された分子の層で、地上からの高さで、D層,E層,F層の
大きく3つの層に分かれています。(F層はF1,F2の2つの層になる場合もあります。
また時間帯によりE層が消滅する事もあります。)
 電離層では電波の周波数により、電波が反射されたり、吸収されたり、透過したりします。
 一般には低い周波数の電波は反射し、高い周波数の電波は透過します。

 詳細は電気通信の参考書を見ていただくとして、「スポラディック(sporadic)E層」は
発生する高度がE層程度の高さなのですが、電離密度が濃い為に、F層(通常では最も高い
周波数の電波を反射する)であっても反射しないような超短波(VHF)帯の電波をも
反射してしまう特別な電離層です。


4.対策方法は

 「スポラディックE層」という電離層は、その発生条件も太陽活動に影響を受けている事以外
詳細がわかっていません。その為に発生する時間や発生位置を予知する事も出来ないのです。
 この周波数を使用している限り、この電離層の活動の影響をモロに受けてしまう事になります。

 つまりこの周波数帯を使用している限りは、このいたずらな電離層により、肝心な防災放送が
受信できないという問題が発生する可能性があるのです。


 対策方法としては、「スポラディックE層」の影響を受けない高い周波数の電波を利用する方法と
有線(ケーブルもしくは光ファイバ)を利用する2つの方法が考えられます。
 しかし、後者の有線方式は「防災無線」という性格から使用は不適当です。(有事の際でも、
ケーブルが絶対切れないという保証がない。)

 従って前者の高い周波数の電波を使用する方法に的が絞られます。
 とはいえ、高い周波数の電波を使用すると指向性の鋭いアンテナを使用せざるを得ないが、
有事の際にアンテナの方向が狂わないという保証がない事と、電波の干渉(直接届く電波と、
なにかに反射して届いた電波が干渉し、場所により電波の強さが大きく変化する。)の影響を
受けやすい等の問題もあり、それぞれに一長一短があり一概にどの方式がいいとは言えないのが
現状です。

 複数の伝搬ルートがあれば良いのかもしれませんが、他によい対策はないのでしょうか。


5.「スポラディックE層」の楽しみ方

 スポラディックE層が発生する位置や時間を予測する事は出来ませんが、その発生の事実を
ある程度知る事は出来ます。

 本コンテンツは、「スポラディックE層」による不具合に関する事柄ですので、「楽しみ方」と
いうのはちょっと反則ですが、非常に面白い自然現象でもあり、楽しまないという手はありません。

 必要な物は、短波から超短波の周波数が受信できる受信機(一般には広帯域受信機とか、ゼネラル
カバレッジ受信機と言われる受信機)を用意します。(なければFMラジオでも仕方ありません。
アマチュア無線の免許をお持ちの方であれば短波帯や50MHz帯の無線機があれば、楽しみかたが
増えます。)

 なお、国内の無線界では「スポラディックE層」の事を「Eスポ」と省略して言う事がありますので、
以下は省略形で記述します。

 「Eスポ」の強さにもよりますが、30MHz付近(実際にはアマチュア無線帯である
28.5MHz付近を聞く事になるでしょう。)や,50MHz付近からFM放送である90MHz
付近まで周波数ダイヤルをグルグル回しながら丹念に受信してみます。

 普段からこれらの周波数を聞いていると、ある季節、その地域でどの周波数がどんな使われかたを
しているか、またどの地域から発信された電波であるかおおよそ分かってきます。(市販の周波数帳を
参考にしても良いでしょう。)
 ところが「Eスポ」が発生すると普段聞かれない電波が多数聞こえてきます。

 それが国内の無線局や放送局のみならず、海外のTVやFM放送だったりする事もあります。

 おおよそ50MHz以上の周波数を探していくと「ブーン」という音(バズノイズと言われる)を
伴った電波が受信できます。この電波は、海外のTV放送の画像の電波です。この周波数からもう少し
高い周波数を探していくと聞きなれない言葉の音声が受信できる事と思います。
(ただし「ブーン」という画像の電波に対し、音声の電波は送信時から弱い為、「プーン」という
電波が受信できても音声が受信できない場合もあります。)

 またわずかな時間経過でも受信できる放送が変わったり、突然電波が入ってきたり、受信できなく
なったり、また電波が強くなったり弱くなったりと変化が著しいのも「Eスポ」の特徴です。

 一般には、強い「Eスポ」である程電波の強さも強く、安定して、しかも高い周波数まで受信でき
ます。
 ただし、いくら強い「Eスポ」が発生したとしても受信地点と「Eスポ」の発生位置と送信位置との
関係によっては受信できない事もあります。(スキップゾーンと言われる。)

 傾向としては、私の住む山形からは「Eスポ」の発生する位置の関係からか、国内より海外の
電波のほうが受信できる機会が多いようです。
 普段聞かれない九州地方のFM放送が聞こえた時等は、理屈が分かっていてもうれしいものです。



 アマチュア無線の免許をお持ちであれば、上記のような現象を確認したらすぐに28MHz帯や
50MHz帯を受信してみます。「Eスポ」の発生に気がついた人が必ず電波を出していますので、
こちらからも応答すれば、交信できる事でしょう。
 電離層が非常に強い場合であれば144MHz帯であっても遠方との交信が楽しめます。
(私ですら、自宅である山形から144MHzFMで、九州内を自動車で移動している無線局と
交信した実績があります。)


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