もう15年位前になりますが、八重洲無線(現在は「バーテックス スタンダード」に社名変更)から、60MHzから905MHzを カバーするワイドバンドレシーバFRG−965が発売されました。 この頃のワイドバンドレシーバといえば、ちょっと怪しげな メーカーの製品ばかりで、無線機メーカーからの機種はほとんど ありませんでしたので、待ちに待った機種でした。 私もその当時、こういったワイドバンドレシーバは持って おらず、カバーする周波数,SSBまで対応する等の機能を 持った同受信機をボーナスが出てすぐに購入しました。 たまたま仕事の関係で1年程東京の府中市にいた頃で、 警視庁の無線がまだアナログで、良く聞いていました。 (本機にまつわるいろいろな事件!は別途紹介します。) しかし、噂通りの耳の悪さ。その頃は大幅に手を加える 事は出来ませんでしたが、雑誌への記事等をきっかけに 自宅に戻ってから感度をアップする為の改造を試み、 だいぶ改善されました。 今更ではありますが、まだお使いの方の参考として、 私が施した改造内容を紹介したいと思います。 ただ改造からだいぶ時間が経過している為に、記憶が 薄れつつあり、全てを網羅できていないかも知れません ので、実機を見て思い出した範囲で説明します。 感度向上にはいくつかステップがあって、ラジオライフ誌で 紹介されたものもありましたが、その内容も一部含まれています。
FRG−965の受信部の、メインとなる周波数変換部は CATV用のチューナパックが使われています。 チューナパック自身はそれほど感度が悪くないはずです。 というのも、感度か悪ければTVだってきれいに受像することが 出来ないからです。(もちろん、本格的な受信機と比べると 感度は落ちますが・・・) しかし、下記のようないくつかの理由により、その感度を 落としてしまっているようなのです。 下記に詳細を説明しますので、以下リンクの回路構成を参照しながら お読み下さい。FRG965の回路構成
2−1.アンテナコネクタからチューナパックの間に、いろいろな 回路が入っている為に電波がロスってしまう。 アンテナからコネクタから入力された電波は、一度メイン 基板に入り、VHF帯とUHF帯を切替える回路(切替える 周波数は忘れてしまいました。)と、アッテネータ切替え 回路を通り、TVチューナ(CATV用)パックに入力されます。 この回路は1つのアンテナコネクタからの電波を、チューナ パックのVHF用とUHF用の2つの入力に振り分ける為の ものと、過大入力時の混変調等を軽減するアッテネータ機能の 為に入っているものですが、上記のような回路がある為に、 チューナに入る前に電波がロスってしまいます。 NF(雑音指数)について勉強された方であればおわかりかと 思いますが、いくらNFが良い(感度が良い)受信機でも その前で電波が減衰すれば、減衰量以上NFが悪化してしまい ます。そうなると後段でいくら頑張っても感度が上がらりません。 (絶対的に利得が足りない場合は除きます。)従って、チューナに 入力するまでのロスを少しでも軽らす必要があります。 もちろん、入力回路での減衰分を、アンテナとの間にプリアンプを 入れて稼ぐのも手です。しかしこの当時は広帯域で低ノイズのアンプは アマチュアでの入手は難しかったと思います。 (その後アンプ内蔵のアンテナが市販されるようになりましたが、 使用しているデバイスを見ると、低ノイズとはいい難いものでした。) 2−2.チューナのIF出力を分配している為に分配ロスが発生している。 チューナパックのIF出力側は、検波方式によって3つ位に分配 (確かAM系,FM系,TV映像系の3つ)する構成になっていますが、 分配する事で、他の回路にエネルギーが取られてしまいます。 損失が全くなくても2分配で3dB,3分配で5dB近いロスが 発生します。実際にはインピーダンス不整合等によるロスも発生する はずですから、次の段に伝わる信号は6dB(電力で4分の1)位 落ちていてもおかしくない状態です。 FRG965の設計段階で、レベル分配をどのように設計しているのか わかりませんが、相当感度を落としてしまっているようです。 従ってこのロス分を補う必要があると考えました。 2−3.チューナのUHF端子のインピーダンス不整合と 平衡・不平衡によるアンマッチ。 チューナパックのUHF帯の端子には50Ωの同軸ケーブル ( しかも細い・・・)が接続されていますが、チューナ側の端子が、 200Ωの平衡入力である為にミスマッチを起こしてしまいます。 コネクタがM型とは言え・・・50Ωに200Ω負荷では VSWRが4にもなってしまい、相当大きなロスが発生していると 考えられます。 従ってインピーダンスと、平衡・不平衡を整合させて、 反射ロスを少しでも軽減したほうが良さそうです。 もっとも実際チューナの入力が完全に200Ωになっているわけ ではありませんし、アンテナだって周波数を変えていったら インピーダンスがどうなっているのかわかりませんので、 気休めなのかも知れません。
以上説明したような、感度を落としていると思われる原因が ありますので、それを取りのぞいて、チューナ自身の感度を なるべく引き出す事が感度アップの秘訣と言えます。 そこでそれを対策する為に私は、以下の方法を取りました。 (雑誌の記事にヒントを得たものもあります。) 3−1.UHF入力の分離 (2−1項及び2−3項の対策で、UHF帯の感度向上に効果が あります。VHF帯には効果がありませんが・・・) チューナパックには、VHF帯用とUHF帯用の2つの入力端子が あります。 VHF帯の入力端子はRCAジャック、UHF帯の入力端子は、 端子が2本出ていて細い同軸ケーブルが接続されている所です。 まずは、UHF入力端子に接続されているケーブルを外してしまい ます。(外したケーブルは絶縁処理しておく) またFRG−965のケース裏側のアンテナコネクタの隣りに コネクタを取り付け出来るスペースがありますので、ここに新たに コネクタを追加します。(私はM型を使用しましたが、N型とか BNC型だとなお良いでしょう。) 追加したコネクタからチューナパックのUHF帯の入力端子 に直接接続します。可能ならば75Ωから300Ωに変換する メガネバラン(TV等のインピーダンス変換用)を入れると ミスマッチによるロスを押さえる事が出来ます。 なお、この改造を施すとUHF帯ではパネル正面にある アッテネータスイッチは効かなくなります。(直結したのですから 当然ですが。) もしアッテネータが必要な場合は、外部に接続する事になると 思います。 私はさらに、VHF側入力についても同様にアンテナコネクタと 直結させ、余ったアッテネータ回路をIF段に挿入させました。 (アッテネータはあまり意味がないかも知れませんが・・・) 3−2.チューナパックのIF出力にIFアンプを追加。 (2−2項の対策) チューナパックのIF出力(基板面に出力)と、次段のIF 回路の間にIFアンプを挿入し、チューナのIF出力を3分割に する為に発生する分配ロス分を、あらかじめ稼ぎます。 IF周波数が45MHz付近ですので、アマチュア無線用に 市販されている50MHz用のプリアンプキットを使用すると 簡単です。 私が実際に使用したのは「FCZ研究所」というメーカーの ものです。(GaAsFETを使用したアンプなので、ちょっと オーバースペックですが・・・) コアの調整だけでは45MHzまで下がりませんので、 コイルの同調コンデンサに数pF程度のコンデンサを パラに接続し周波数を落とします。 電源はFRG965の8V出力を流用します。 IF回路側は、後段回路のバイアスがかかっていますので、 0.01μF程度のコンデンサを直列に入れて、バイアス分をカット します。 以上の内容をまとめたのが、下記の回路(プロック図)です。感度アップ改造後の回路構成
以上のような改造を施す事で、ノーマルの状態よりはだいぶ 改善できたと思います。 ただ現在の市販の受信機と比較して遜色ないかと言われますと 何とも言えません。
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