多重無線受信装置の製作


 目次
1.はじめに
2.多重の原理と、多重無線の原理
3.新幹線列車無線の多重方式
4.受信回路の構成検討
5.受信回路の設計と製作
6.製作後の調整
7.動作確認
8.応用
9.さいごに

1.はじめに

 市販の受信機で受信(復調)できない方式のひとつに多重無線があります。

 中にはFM放送のステレオやTVの音声多重のように対応する受信機が
市販され、規格自体も普通に知られているものもありますが、その他の
多重方式の仕様はなかなか入手できないようで、当然ながら受信機が市販
される事もありません。

 今回は多重無線の中でも新幹線列車無線に焦点を当て、方式の解析と
受信機の製作に取り組んでみました。

2.多重の原理と、多重無線の原理

 1つの伝送経路で複数の信号をひとまとめにして伝送する為に行う処理を
「多重」(Multiplex)と言われます。信号をまとめる方法もいくつか
あり、周波数軸上で複数の信号をまとめる方法が「周波数分割形」
(FDM・・・Frequency Division Multiplex),時間軸上に複数の信号を
まとめる方法のが「時分割形」(TDM・・・Time Division Multiplex)です。

 伝送経路は、ケーブルを使用する場合と電波を使用する場合がありますが
多重無線はその名の通り電波を伝送媒体として使用します。

 通常の多重無線は「周波数分割形」が旧来から広く使用されていますが、
最近のデジタル方式の場合は時間軸上でデータを詰め込む事が容易に出来る
為、「時分割形」が多用されるようになりました。

 「周波数分割形」多重無線は、最終的な電波(キャリア)に乗せる前に、
あらかじめ別の変調器で変調をかけておいた信号を複数混合(多重)し、
それをまとめて変調して電波に乗せて送信するしくみになっています。

 図1に「周波数分割形」(FDM)多重方式の信号を生成する例を示します。
 通常電話等の音声周波数範囲は300Hzから3.4kHz程度になっていますが、この
音声をサブキャリア(副搬送波)にて平衡変調しフィルタリングしてSSB波
(単側波帯)にします。

 平衡変調しただけではDSB波(両側波帯)となり、周波数の利用効率が
低下するので、側波帯の上側か下側のどちらかをフィルタリングにより取り出て
SSB波(単側波帯)にしますが、この時サブキャリアより上側の周波数成分
を取り出せばUSB波,下側の周波数成分を取り出せばLSB波となるのは
通常の無線のSSB変調器と同じです。

 変換後のSSB波の周波数成分は、USB波を取出した場合はサブキャリアと
音声信号の周波数の和の周波数、LSB波を取出した場合はサブキャリアと
音声信号の周波数の差の周波数成分となります。この図はUSB波の場合です。


 このような処理を伝送したい音声のチャンネル数だけ行いますが、SSB波
に変換した後の周波数成分が、チャンネル間で重ならないようなサブキャリア
周波数が選ばれます。

 電話系の場合は音声信号の周波数帯域から考慮し4kHz間隔にするようです。
(図のサブキャリア周波数は多重の考え方を示す為の一例です。)

 このようにして周波数帯の異なる複数のSSB波を混合して出来た信号が
FDM(周波数分割形多重信号)波で、FDM波をまとめてFM変調して伝送
するのが、FDM−FM方式です。

 最初に行う変調方式がSSB(単側波帯)である事からSS−FM方式と
呼ばれた事があったようですが、現在「SS」というとスペクトル拡散方式
を指す事が多く誤解を招き易い為、本稿ではFDM−FM方式と呼びます。

 以上説明しましたように多重無線は、送信する時点で複数回の変調が
行われてから電波に乗せてありますから、受信する場合は逆の手順で復調すれば
元の音声信号を得る事が出きます。

 図2に「周波数分割形」多重無線受信機の構成を示します。
 FM波を親受信機で受信しFM検波すると、FDM方式で多重化された
ベースバンド信号の状態に戻ります。
(「ベースバンド」とは変調を行う前の信号を指し、多重しない通常の無線の
音声信号に該当するものです。本稿では、電波に乗せる為の変調器で変調
する前の信号の状態を特にそのように呼ぶ事にしますが、本来の意味とは
若干異なるかも知れません。)

 ベースバンドになったFDM波と、FDM波を生成した時と同じ周波数の
サブキャリアとを平衡変調器に入力すると、元の音声信号に復調されます。

 別のチャンネルの音声信号を受信する場合は親受信機の周波数を変えずに、
平衡変調器に入力しているサブキャリアの周波数を変える事により行います。

 このような複雑な構成にするのは1台の送信機で複数の情報を一度に送信
出来るようにする為のものですが、複数回変調を行う事で通常の受信機で復調
できなくなる事から、秘話性という副次的な効果もあるようです。

 ただし電波に乗せる変調方式によっては単なる「周波数変換」にしかならない
場合があり(例えば電波に乗せる変調方式がSSBの場合)その場合は秘話性
は無くなります。

 また電波に乗せる方式がFM変調である場合は周波数精度が要求されない為、
伝送するのがマイクロ波帯であっても機器のコストを下げる事が出来る狙いも
あるようです。


 FDM方式の多重無線のベースバンド部分の処理方法は、有線の電話の長距離
回線等でも、1本のケーブルに多数の回線を「多重」して伝送する方法として
利用されているものものす。

 要は伝送媒体がFM波であるかケーブルであるかの違いはあるものの、同じ
技術がベースになっていると考えて良さそうです。

 もっとも今時の電話回線は、デジタル信号で多重処理を行う方法になって
いると思いますので、この方式は過去の遺物と化しているかも知れません。


 ここまでは電話を前提にした多重無線の方式の例を説明しましたが、変調
方式や周波数帯域の違いはあるものの、FMラジオのステレオ方式や文字多重、
TVの映像信号と色信号,音声信号、そしてTVの音声多重もFDMによる
多重方式になっています。

 これらの方式の詳細については、FMステレオの例は今回製作する受信機の
調整段階で使用する関係で後述しますが、他については資料が多数出回って
おりますのでここでは割愛します。

3.新幹線列車無線の多重方式

 新幹線の多重無線と言っても、昭和世代の?アナログ処理全盛期の「作品」という
事もあり、先に説明しましたFDM−FM方式がベースとなっています。

 東海道・山陽、東北・上越・長野等のフル規格新幹線路線の列車無線の方式は
地上局が「多重無線」で送信、車上局(列車側)は通常のFM波で送信するように
なっているようです。

 多重の方法は、まず音声を数10kHzの低周波のサブキャリア(ベースバンド信号を
作成する段階でのキャリアを「サブキャリア」と呼ぶ。)にてSSB変調します。

 他のチャンネルの音声についても同様方法で、但し別のサブキャリア周波数で
SSB変調します。

 これらのSSB変調波を混合しそれをベースバンド信号とします。その信号で
452MHz帯のキャリアをFM変調し送信するような構成になっているようです。

 サブキャリアの周波数は、東北新幹線の場合調査の結果50〜80KHz付近での使用が
多いようで、4KHzの整数倍となっているようです。またFDM波を生成する段階
でのSSB波はLSB波を使用しているようです。

 FM変調段階での周波数偏移は100kHz程度と思われ、FM放送のような
広帯域FM変調となっているようです。

 以上の方式から、受信する場合はその逆に452MHz帯の受信機にて広帯域FM検波
してベースバンド信号に変換し、検波されたベースバンド信号を数十kHzのサブ
キャリアを使用し平衡変調(復調)すれば元の音声に戻るはずです。

 もちろん復調の際のサブキャリア周波数を送信時のサブキャリアと完全に合わせ
ないと音声の周波数がズレるのは通常のSSBの復調と同じです。


 なお受信回路の試作段階においてはFM波の周波数以外は確定した情報を持ち
合わていなかった為、多重方式の仕様を下記のように予想し、変調方式や周波数
帯域帯域をある程度カバー可能な回路で受信回路の試作及び受信実験に着手しました。
(実際、写真1の試作機にはFM方式の復調回路も搭載しています。)


予想していた地上局側の多重方式

 ・周波数帳に掲載されている車上局側のチャンネル数から、数十波をまとめて
  1波にして送信。

 ・周波数効率面等から音声をベースバンド状態に乗せるまでの変調方式がSSB,
  最終的な電波に乗せる段階での変調方式はFM。

 ・FM波のキャリアは452MHz帯

 ・SSBでのサブキャリアは4kHz毎で、最高周波数は100kHz位。
  よってベースバンドの帯域も100kHz程度。
  (あまり高い周波数になるとFM変調した時の周波数帯域が広く必要となり、
  周波数利用効率が落ちる事から上記程度と予測)

4.受信回路の構成検討

 上記の使用から受信回路構成の検討に着手しました。

 まずは452MHz帯の多重無線波をFM検波してベースバンド信号に変換する
親受信機が必要となります。
 多重無線のベースバンド信号は広い周波数帯域が必要です。適当な受信機は・・・
と最初に思い付いたのはFM放送用の広帯域FM検波回路が付いている市販の
ワイドバンドレシーバです。
 FM放送、特にステレオ放送の受信には数100kHz程度の周波数帯域が必要と
なりますので、対象となる無線の周波数範囲やチャンネル数等からこれで十分と
考えました。

 筆者はマルハマのRT−618を使用し、FM−Wモードに設定して使用して
います。
 ただしこの受信機はFM検波段からの信号が出力されていませんので、信号を
取出す改造を行う必要がありました。(図3及び写真2参照)

 MPX出力のある受信機であれば、その出力をそのまま利用できると思います。


 ベースバンドになったFDM信号の復調には、数十kHz帯のSSB受信機が
必要となりますがそのような受信機は市販されていませんので自作する事になります。

 自作と言っても、平衡変調(復調)器と数十kHzの発振器があれば良く、
平衡変調器にベースバンド信号と数十kHzの発振器からの信号を入力すれば、
復調された音声信号が出力されますので、あとはその出力をヘッドホン等が駆動
できるレベルまで増幅すれば目的は果たせます。

 なお、不必要な信号を除去するフィルタが必要となります。
 平衡変調(復調)機の前のベースバンド信号であるFDM波の中から目的の
チャンネルの信号だけ取り出すバンドパスフィルタと、復調後の帯域を制限する
ローパスフィルタが必要です。

 前者がないと隣りのFDM波や、サブキャリアの高調波関係のある信号まで
復調されて出力されてしまいますし、後者がないと不要な高周波数帯のノイズが
受信した信号に混入して聞きにくくなります。

 後者は固定周波数のフィルタなので比較的簡単に製作出来ますが、問題は
前者です。とりあえず適当なフィルタが製作できなかったので省略しています。
 ビートノイズが入る等の問題はありますが、アマチュアとして使用する分には
これでも十分かと思います。

5.受信回路の設計と製作

 今回製作した回路を図4に示します。

 平衡変調回路は、復調する信号をオペアンプで位相が180度違う2つの信号にし、
その2つの信号を、サブキャリア周波数でスイッチングするというもので、
原理的には高周波で良く使用されるバラン2個とダイオード4本によるDBM
(リング変調器)の動作と同じです。

 この平衡変復調回路はトランジスタ技術誌で見かけたものですが、汎用のIC
(オペアンプはオーディオ用で良く使われる4558,アナログスイッチはC-MOSの
4066)で作れる事から使ってみました。

 MC1496等の平衡変復調専用のICが入手できればそれを使用した回路
でも良いと思います。


 キャリア周波数の発振器はオペアンプによる方形波発振器です。出力波形が
方形波に近く、周波数を変えてもデューティ比(ON/OFF比)の変化が少ない事、
振幅が平衡変調回路で使用しているC-MOSのアナログスイッチを直接駆動するのに
適当である等の理由からこの回路を使用しています。

 C-MOSのインバータを使用した回路でも製作出来そうですので、機会があれば
試してみたいと思っています。


 発振回路に使用するオペアンプですが、タイプにより発振周波数の上限に影響する
ようです。当初手持ちのLM358を使用したのですが、上限周波数での振幅が
低下したり、クロスオーバー歪が見られた事からLM833に変更しました。
 4558を使用した場合上限の周波数が低下するようですが、今回の目的の
周波数は十分カバーしますのでそれでも問題ないと思います。
 またLM833ほど上限周波数が伸びないもののTL082も比較的良好でした。


 発振回路に用いているコンデンサはマイラコンデンサが適当でしょう。
 セラミックコンデンサは値の精度や温度特性の面からお勧めできません。


 なお受信の際に発振周波数の微妙な調整が必要である為、10回転のポテンショ
メータで周波数を変えるようにしています。右に回転した時に抵抗値が
小さくなる(=発振周波数が高くなる)ように接続します。

 ポテンショメータは可変抵抗器の一種ですが、回転角度と抵抗値の関係が
リニアにしかも精密に変化するようになっているもので、計測器等でも多く使用
されるものです。(写真3参照)

 ポテンショメータには専用のダイヤルが別売されていますが、本機もこれを
付ける事をお薦めします。
 これはツマミの周囲に100分割された目盛がふられており、その外側に
何回回転したかを示す0から10の数字が窓に表示されるようになっている
もので、これがあればポテンショメータの位置が正確にわかるようになります。
 窓に表示された数字を100の桁とし、ツマミ周囲の目盛から10の桁、
1の桁を読み取ります。

 ポテンショメータと専用のダイヤルは以外に高価なもの(合わせて数千円程度。
なお雑誌での調査では秋月電子に比較的低価格のものがあるようです。)ですが、
これがあるとないとでは使い勝手が全然違います。というのも、周波数カウンタ
を使用してダイヤルの目盛と周波数の関係をグラフ化しておけば、かなりの精度
で周波数の読み取りが可能となるからです。

 なお、ダイヤルのつまみ部分は樹脂製のものをお勧めします。特に回路を
樹脂ケースに収めた場合、金属部に触れると周波数が変化する事があるから
です。(ボディ・エフェクトと言われる現象)もし金属製の場合は、軸を
回路のGNDに接続すると対策できると思います。

 ダイヤルを取り付ける場合はポテンショメータを左に回しきった位置にし、
ダイヤルを0に合わせてからダイヤルのねじを固定します。これで、右に
回し切った時に窓の数字が10、目盛りがほぼ0になるはずです。

 なお固定にはダイヤルのタイプにもよりますが、インチサイズの六角レンチが
必要となるようです。無ければ細い精密タイプのマイナスドライバを2本
突っ込んで締める事も出来るようですが・・・

 また専用ダイヤルの回り止めの方法も何種類かあるようで、筆者が確認した
範囲でも、取付けるパネルに回り止めの穴を開けるタイプと専用のベースを
ポテンショメータの取付けネジと共締めにするタイプの2種類ありました。


 とりあえず受信できれば良いという場合は専用ダイヤル無しとするとか、
多回転型の半固定抵抗を使用すれば、部品代を押さえる事は可能です。
 でも・・・きっと後でグレードアップしたくなると思います。


 復調後のローパスフィルタはオペアンプを使用した基本的なもので、遮断
周波数を3.4kHzとして設計しましたが実際には市販パーツに合わせた定数にした
関係で設計値からのズレがあると思います。

 後段の低周波アンプもオペアンブですので、低周波アンプ部にフィルタ
機能を持たせる事も出来ると思います。


 低周波のアンプはオペアンプを使用しており、ヘッドホンをそのまま鳴らせるもの
です。実はこの回路、とあるカセットデッキから読み取った回路で、その必要も
ないのに「ステレオ仕様!」で製作しています。

 この部分のオペアンプはヘッドホンアンプに適したNECのμPC4557Cを使用しました
が、改良版のμPC4560Cや他社同等品でも構いません。もし入手できなければ4558
でも(アンプが過負荷動作気味ですが)最近の主流であるインピーダンス32Ωの
ヘッドホンは何とか鳴ってくれます。


 また携帯動作を考えてこのような回路構成にしましたが、この回路でスピーカを直接
鳴らすのは出力が不足しますので、その場合はLM386等を使用した回路に置き
換えたほうが良いでしょう。
 またパソコンや携帯オーディオ用に市販されているアンプ付スピーカを接続して
使用するのも手です。


 このアンプは、オペアンプを使用した単純な反転アンプなので、ゲインは入力側の
抵抗と帰還抵抗(−端子と出力端子間に入っている抵抗)の比で決まります。
 図の定数ではおおよそ3倍(10dB程度)となっていますが、もし音量が
不足するようであれば入力側の抵抗を小さくするか、帰還抵抗を大きくして下さい。


 なお本機はオペアンプを多数使用しています。普通オペアンプを使用する場合、
プラスマイナスの2電源が必要となりますが、回路を工夫(図中、1/2Vccと
書いてある部分)して、以上の復調回路一式を9V電池1本で動作可能としています。
 消費電流は25mA程度でした。



 筆者は、以上の回路をサンハヤトのICB288という基板1枚に全て実装し、
タカチ電機工業のSW−120というプラスチックケースに実装しましたが・・・
ポテンショメータの胴回りが太くカバーが閉まりませんでした。

 携帯性を考えてギリギリのケースにしたのですが、もうすこし余裕があれば
良かったようです。(写真4参照)

 また基板もある程度組み慣れた方なら問題ないと思いますが、余裕はあまり
ありませんので、自信のない方は一回り大きな基板のほうが良いかも知れません。

6.製作後の調整

 サブキャリアの発振回路の周波数調整が必要となります。
 調整というよりは受信周波数を特定する為にポテンショメータの目盛と受信
周波数との関係を測定しグラフ化しておく作業です。

 この作業には周波数カウンタが必要となります。カウンタを接続する位置は
発振回路出力直接ではなく平衡変調回路のアナログスイッチ(インバータとして
動作)を経由した位置とします。(図4参照)発振器出力に直接カウンタを
接続すると発振周波数がズレるので、それを防ぐ為です。

 まず、ポテンショメータを回し発振周波数範囲を確認します。筆者が作成
したものはこの定数で16kHz〜210kHz程度の可変範囲となりましたが、前にも
述べましたが使用するオペアンプにより周波数範囲が変わる場合があります。
 ちなみにオペアンプを4558に変えてみたところ、上限周波数が100kHz
程度でした。もし、目的の周波数をカバーしないようであればコンデンサの
容量等を多少変えてみる必要があるかも知れません。
 また調整中に回路や部品に触れると発振周波数が変わる事がありますので
注意して下さい。


 周波数可変範囲の確認が終わったら、ポテンショメータを0から1000まで
変えながら周波数を読み取っていきます。抵抗値が大きいうちは周波数の変化が
少ないので最初は5毎,800目盛を過ぎた辺りから2毎に取るのが適当でした。
ここも使用する部品によって異なると思いますので状況を見ながらやってみて
下さい。


 測定が終わったら、ポテンショメータの目盛りの位置と測定した周波数との
関係をグラフに表わします。

 グラフ用紙に測定値を記入する方法でも良いですが、測定値をEXCELL等の
表計算ソフトに入力してグラフ化するときれいなグラフになります。

 なお横軸を目盛、縦軸を周波数として記入しますが、縦軸は4kHz毎に小目盛を
入れるようにすると実際の周波数間隔とマッチし扱いやすいようです。
 私が作成したものを図6に示します。


 もしオシロスコープがあるのであれば発振波形を測定したり、実際に受信機を
接続して信号を追ってみれば確実です。

7.動作確認

 身近な所で多重無線が受信できる場合はその信号を使用しても良いのですが、
まずは仕様がはっきりしているFMステレオ放送を受信してテストに使用します。
 FM放送はほとんどの地域で受信可能な事から最初のテストに適していると
思いますので、ここではFMステレオ放送を使用した動作確認方法を説明します。

 予備知識として図7にFMステレオ放送の電波の多重方式を説明します。

 FMステレオ放送は、ベースバンドの可聴周波数帯にL+R信号(左と右の
音を足した信号),19kHzにステレオ放送である事を示しステレオ復調回路の同期を
取る為のステレオパイロット信号,38kHzを中心にL−R信号( 左と右の音の
差の信号)が平衡変調(いわゆるDSB)され、それらの信号が多重されて
一括してFM変調されています。19kHzのステレオパイロット信号の周波数は
L−R信号の変調に使用した38kHzを2分周した周波数になっています。

 なおモノラル放送の場合、19kHzのパイロット信号やL−R信号は多重されません。

 また、文字放送が多重されている場合は76kHzを中心とした周波数に多重されて
いるようです。


 動作確認方法を説明します。

 まず親受信機の周波数を最寄りのFM局に合わせます。モードはFM-Wとします。
 他の受信機でステレオ放送となっている事を確認してから、本機のサブキャリア
発振周波数を19kHz付近に合わせるとパイロット信号とのビートが聞こえるはずです。
 ビートの周波数がポテンショメータの回転に伴って変化すればまずは成功です。

 次に音楽が流れている瞬間を狙って38kHz付近に合わせてみます。
 SSB受信の要領で周波数を変えていくとあるポイントでフェーディングを
伴った感じでL−R信号が受信されます。(これはかなり微妙です。)
 フェーディングのようになるのは、L−R信号がDSB波である為に、
本機で復調後のLSB波とUSB波の周波数が完全に一致せずにビートを起こす
為です。
(アナウンスだけの場合はL−R信号がほとんど現れない為、うまく受信が
できないと思いますので注意)

 本来のFMステレオ受信機の場合19kHzのパイロット信号を使って復調
回路の同期を取るようになっていますが、本機の発振回路にはそのような機能を
設けてありませんので、「正しい音」にはなってくれません。

 ここは本来の動作にはあまり関係ありませんのであまり追い込まなくても
大丈夫です。


 以上の動作が出来ていれば実際の多重波を受信してみて下さい。

 受信した電波に多重された信号を受信すると、ポテンショメータを可変
するにつれピートが聞こえ、音の周波数が回転につれ変わっていきます。
 SSBのようなモガモガ音が聞こえた時は周波数をゆっくり変えてみて
下さい。どこかで音声が受信できるはずです。なお回路の都合上USB波を
LSBモードで受信するような周波数関係になる事もありますので、うまく
音にならない場合は音が低くなる方向に周波数を大きくずらしてみると
受信できるでしょう。

 なお実際の多重波には復調回路の同期を取る為の信号や、回線制御の
信号,データ系の信号が多重されている場合もあると思います。

 サブキャリア周波数と受信内容を先に作成したグラフに記入して
いきますと、おおよその使用状況が判明すると思います。

8.応用

 TVの音声多重方式は、変調方式がFMベースとなっている為、本回路
では復調出来ません。しかし上記回路の復調部をNE565等を使用した
FM復調に変える事でTVの音声多重波の受信が出来ます。(2か国語放送
しか実用になりませんが。)

 要はTVの音声多重がFM−FM方式という事です。


 また今回製作した回路は、FDM波を直接復調するように設計しましたが、
FDM波をDBM等で周波数変換し、SSB受信機で受信する回路構成も
考えられます。(図8参照)

 自作が苦手な方はこちらのほうが簡単に製作出来るかも知れません。

9.さいごに

 筆者の地元には山形新幹線が走っており、A/Bタイプ無線での通話を多数
聞いておりましたが、それだけでは飽き足らず本来の新幹線の多重無線を
受信したくなったのが本機製作のきっかけです。

 多重方式がはっきりしなかった為、受信回路の試作・調整、そして往復
2時間かけて新幹線沿線まで幾度か出むいてのフィールドテスト(実地試験)
を本業の合間を縫って進めてきた成果がこの回路です。
 なにせ新幹線列車無線は漏洩同軸ケーブルからの電波なので、沿線まで
近寄らないと受信できないのが難点でした。

 実際に通話の内容を聞いた所、公衆系を除けば山形のA/Bタイプと大きく
違いはないようですが、夜間の保守用車等でも使用されている可能性があり、
興味がつきません。機会があれば実際に乗車しての受信も行いたいと思います。

 また今回は新幹線がターゲットとなりましたが、他の多重無線があれば
そちらも試してみたい所です。

 なお、決して悪用はなさらないようにお願いします。


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