カウンター500番ゲットのRio様へ
天使が、湖のほとりで翼を休めています。涼しくなってきたので風邪を引かないうちに目を覚ませばいいのですが・・おや、誰かが天使を見つけたようです。
「これから行けば湖で夕焼けが見れる頃だね。行ってみようか」
気まぐれな詩人セイランは、一人でそうつぶやくと学芸館の私室を出ていった。彼にとっては当然のことであっても、学芸館で彼の身の周りの世話を言い付かった者達にとってはしばらく慣れるまでに時間がかかったようであった。「どちらへ?」等と聞こうものなら、その度に冷ややかな答えが返ってきて、泣き出してしまったメイドもいたとかいないとか・・
アンジェリークは、お茶の入ったポット、バスケット、お気に入りの画集を持って湖へと向かっていた。どうやら、試験の合間の息抜きに行くようである。どちらかというと外で駆け回ったりするよりは、一人でのんびりと過ごすほうが彼女の性に合っているようだ。
湖に着いた彼女は、暖かな日差しと軟らかな下草の感触に、つい眠りこんでしまったらしい。
膝の上にはお気に入りの画集。傍らに置かれたバスケットには中の木の実を目当てに小鳥や小動物が集まっている。木漏れ日に当たった栗色の髪は、金のティアラを付けたように輝いていた。
セイランはその風景に一目で魅了されてしまった。
「これは・・?」
彼の中にある「創作の源」が動き出した。
絵画、彫刻、メロディー、言葉。いったいどんな形で表現したらいいのか。唇から言葉が溢れ、また新しいメロディーを紡ぎ出す。
だが、その時のセイランは「作品」以上に手に入れたいものがあった。
腕の中に捕らえてしまえば壊れてしまいそうな天使。アンジェリーク。
じばらくして目を覚ましたアンジェリークはたいそう驚いた。何せすぐ近くに人の姿があり、しかもそれが教官のセイランであったから無理もない。
「え・・セイラン様?どうしてここに?」
「アンジェリーク、君はどこまで僕を困らせれば気が済むんだい?
僕はいつもならここで作品をつくるための霊感を得ることが出来たんだ。だが、今日は全くそうはいかない。何故だかわかる?」
そう言ってアンジェリークを見つめるセイランの目には、常日頃のものとは違う光があった。ごく真っ直ぐに見詰められると、アンジェリークはただただ黙って俯いているだけだった。
「僕の力では及びもつかない芸術品を見つけてしまったのさ。」
「???」
不思議そうな顔をするアンジェリークをセイランは突然抱きしめた。
「セイラン様・・離して下さい」
夕焼けの色に顔を染め、消え入りそうな声でやっとそれだけ言った
アンジェリークの耳元でさらにセイランは囁いた。
「離すものか。やっと見つけた至上の宝石。僕の魂の半身。どんなことがあっても離さない。」
その言葉を聞いていたアンジェリークの瞳から涙がこぼれた。そしてアンジェリークはセイランの方に笑みを返した。
もう、恋人達の間に言葉はいらない。夕暮れの湖のほとりで、湖の青を宿した瞳は嬉し涙に濡れ、ゆっくりと閉じられた。
湖に写ったシルエットはしばらくの間2つに別れることはなかったという。
天使は翼を捨てました。いいえ、もう翼は必要ないのかもしれません。
なぜならずうっと安らげる場所を見つけたのですから。
あとがき
私にとって始めて「誰かのため」に書いた作品でもあります。
「温和ちゃん」らしくなっているかどうかかなり不安だったりもします。