カウンター3500番ゲットのみけ様へ

小川のほとりで

飛空都市の中でも格段に景色の良い場所に建てられている聖殿の中で、少し、いやかなりお行儀悪く机の上に足を投げ出して坐っていた少年がついに我慢の限界とばかり椅子を蹴って部屋を飛び出して行った。
昨日、ジュリアスから食らった大目玉の事は忘れているのか、はたまた忘れようとしているのか・・・
「ったく、『今は大切な女王試験を行っているのだ。そなたも守護聖という立場を考え、女王試験に全力を尽くすように。それから、女王候補であるかの者達を執務の自主的休養に付きあわせることは厳に慎むように。』だあ?よーするにサボるな、アンジェを引っ張りまわすのはよせってことだろう?たった一言で済むものを長ったらしい口上つけやがって。」
ぶつぶつとつぶやきながら、ゼフェルは森の近くの小川へと足を向けていた。
「そーいや、この前アンジェをこの小川に連れてきた時、あいつやけにはしゃいでいたよな・・」
小川のほとり、やわらかな草の上に寝転びながらゼフェルはしばらく前の事を思い出していた。
「恋人達の湖」とも呼ばれる場所から少し奥に入ったこの場所に、アンジェリークを連れて来た時、楽しそうに花を摘み、川のせせらぎに耳を傾けていた彼女は本当に楽しそうだった。
「あいつ・・すっげえ可愛く見えた。金色の髪があいつが動いたり、笑ったりするのに連れてキラキラ光ってて。作ってた花束とか周りの花とかより一番目をひいて。なのに俺、『ガキみてーなことしてんじゃねえよ!』なんてつい言ってしまって・・」
いつしかゼフェルは眠りにおちていた。


「ゼフェル様〜!見てください!こんなにすてきな花束が出来たんです。」
ああ、アンジェリークの声だ。ん?そうか、この前ここに来た時の夢だな。
あいつの笑った顔・・ふわふわの髪に縁取られ、それが太陽の光でまるで天使の輪っかみてーに見えたんだ。そしたら、俺、急にあいつがどっか遠いところへいっちまいそうな気がしたんだ。だから、俺あんな事言ってそうすれば何だか遠くに行くのが止められそうな気がしたんだ。
だけど、本当はもっと違う事言いたかったんだ。そう、こんな風に・・
「花束ありがとうな。また一緒にここに遊びに来ようぜ。」


「・・また一緒にここに遊びに来ようぜ。」
自分の寝言で目を覚ましたゼフェルが跳ね起きると側にちょこんとアンジェリークが坐っていた。
「ん?なんでおめーがここにいるんだあ?」
さっきまで夢の中に出てきた少女が目の前にいる。驚いているゼフェルにアンジェリークは「この間ここにゼフェル様と来たことがとても楽しかったので、また来てみた。」との説明を始めた。
「だからといって一人でこんなトコ来るなよ。おめーはそそっかしいんだから川に落ちたりしたらどーすんだよ。」
夢の中ではあんなに素直に気持ちを言えたのに、いざアンジェリークを目の前にしてみると乱暴な言葉になってしまうゼフェル。
でも、アンジェリークにはわかっていたようだ。ぞのとげとげしい言葉の陰にあるゼフェルの照れも。「おめーのこと大事にする」という気持ちも。

「だって、あの時のゼフェルの『また一緒にここに遊びに来ようぜ。』って言った声。とっても優しい声だったのですもの。」
後に女王であり親友でもあるロザリアにアンジェリークが恋人とののろけ話をする時に必ず口にする言葉であった。

「キリ番の部屋」へ