」こんばんわ、レイチェル。お邪魔してもよろしいかしら?」
明日から女王試験。聖獣・・・ルーティスの育成を言い渡されたレイチェルは、優しく上品な女性の声にふと顔を上げた。
「ロザリア様!! どうぞ、お入りください。」
そう、ドアの前に立っていたのは女王補佐官ロザリアであった。
突然の女王補佐官の訪問に少々驚きの色を隠せずに、しかしあくまでも普段の自身たっぷりの態度を貫こうとしている女王候補に向かってロザリアは微笑むと、ゆっくりと話し始めた。
「明日からの試験の前に、あなtにぜひ話しておきたいことがあったのですよ。そう、私とアン・・陛下がまだ女王候補だったころの出来事を。」
「えーっ、ロザリア様と陛下が始めてお会いになったときは、そんなことがあったのですか?}
「虹色真珠と金の星を集める競争を?すっごくフシギな話ですね」
「陛下が即位なさった時にそんなことがあったんですか。」そして、レイチェルは先ほどから引っかかっていた疑問を口にした。
「ロザリア様、どうしてワタシにこのような話を教えてくださったのですか?」
「今日、謁見の間の前のあなたがたの会話が、私の耳に入ったのですよ。」ロザリアは、微笑みながら話を続けた。
「そのことを聞いて、私が女王候補になり立ての頃を思い出して・・そう、生まれながらの女王候補などと周りからもちあげられ、それを守るために自分のことしか見えなくなりかけていた・・そんな事を思い出していたのです。」
「ロザリア様?」
「女王になる、その事も無論大事なこと。でも、せっかくここにきたのなら、他にも沢山することはあると思うわ。多分、とても長い付き合いになるもう一人の女王候補との出会い、試験だけではない色々な出来事があなた方を待っているわ。あなた方は新しい物語を紡ぎ出すことが出来る。陛下も私もそう信じているわ。」
「はい、ワタシきっと頑張ります!」
「それでは、おやすみなさい。今夜はきっといい夢がみれると思うわ・・」
そういってロザリアは帰りの馬車中の人となった。もうしばらくしたら、二人の女王候補に向けて、クラヴィスとオリヴィエのサクリアが、女王の指示で送られる手はずになっていた。女王補佐官としての立場からいえば、二人とも頑張ってくれればいいが、ということだが、昔の自分を見ているようなレィチェルに、素直になれずにいて後悔した自分の2の舞を演じてほしくなかった、という気持ちがあったことは隔しようもない。
ほんの小さなため息を吐いた後のロザリアは、今夜の楽しい計画に頭を切り替えた。その表情はもはや有能な女王補佐官のものではなく、17歳の、甘いお菓子やかわいらしい小物、親友とのたわいのないおしゃべりが何よりも楽しみという少女の顔であった。
そう、何日かに1度、ただのアンジェリークとロザリアとしての時間。
まだまだ、女王も女王補佐官も17歳の女の子だった。