last day first day


アンジェリークとレイチェルによる、女王試験もいよいよ終盤を迎え、惑星の数はアンジェリークが21個、レイチェルが17個という具合で、王立研究院の報告によれば、まもなく新しい宇宙は惑星で満たされるであろうということであった。

ところが、肝心の新宇宙の女王と目されるアンジェリークはといえば、生来のはちきれんばかりの明るさはどこへやら、公園や滝のそばでため息をついている所がしばしば目撃されており、周りの人々は心配していた。

「よお、どうした。お嬢ちゃん。ここのところお嬢ちゃんの輝くような笑顔が見れなくてさみしいぜ。何か悩みがあるのか?何なら俺に話してみないか、かわいいお嬢ちゃんの憂いを取り除いてやるのも騎士のつとめさ。」
と、調子良くアンジェリークに話し掛けているのは、言わずと知れた炎の守護聖オスカー。アンジェリークのことをけっこう本気で心配しているらしい。だが、さすがに守護聖中最高の恋愛経験値を持つ男である。彼女の悩みの原因に思い当たることがあったようだ。
「お嬢ちゃんの顔を曇らせている原因ははクラヴィス様か?」

「クラヴィス」という名前を聞いたとたん、アンジェリークの顔に朱が走る。その顔を見てオスカーは自分の想像があっていたことを確信した。そして、「俺ならいっそ女王にしてしまう前に彼女をさらって逃げてしまうんだがな」と、いささか物騒なことを考えながらアンジェリークをカフェテラスへと誘うのであった。


その後、オスカーは水の守護聖リュミエールに何事か相談を持ち掛けていた。
「頼む、お前からクラヴィス様に話してくれないか。俺はどうもあの方は苦手でな。お前から話せばきっと上手くいくと思う。頼んだぜ。」
「ふふ・・。相変わらず強引な方ですね。しかし、貴方が本気でクラヴィス様のことを心配していらっしゃることはわかります。私の方からお話しましょう。」
「ああ、だがもう残された時間は少ない。早いところ頼むぜ。」



数日後、新宇宙は惑星で満たされ、新宇宙の女王の座にはアンジェリークが就くものと皆が思った頃、アンジェリークは一人で宮殿に向かうこととなった。
しかし、その日アンジェリークが女王候補寮を出ると、急に黒く暖かいものに抱きしめられ、頭上から声がした。
「・・どこへも行かせぬ。女王になどなるな。」

「クラヴィス様!」それきり、アンジェリークは言葉を失った。涙だけがただただとめどなく流れていた。しばらくそうしていたが、ようやく次の言葉が出てきた。
「陛下に呼ばれているんです。でも、たった今陛下の前で言う言葉が決まりました。『女王にはなりません、クラヴィス様の側にずっといます』って陛下に言ってきます。
「そうか、なら私も一緒に行こう」

謁見の間に2人で入っていくと、正面には女王の満足そうな笑顔と、驚いた顔のロザリアが待っていた。
「おめでとう、アンジェリーク。本当はあなたに一日だけ時間をあげようと思って呼んだのだけど、その必要はなかったようね。クラヴィス、アンジェリークのことをよろしく頼むわ。あとは私たちで旨くやっていくから。ね、ロザリア」

女王のその言葉に一大決心をしてやってきた恋人同士は戸惑いをかくせないようだった。どうやらオスカーがクラヴィスに伝えた「本当に好きならさらってしまうか隠してしまうかすればいい」という作戦は成功したようだ。もっとも女王アンジェリークの方が一枚上手という評判もあるようだが。

その日を境に、女王候補アンジェリークの物語は終わりを告げた。しかしそれはまた、クラヴィスとアンジェリークの物語のプロローグでもあった。

Please Countinew in your heart.


あとがき
「即位直前エンディング」に、自分から意中の人の所へ行くのではなく、向こうから訪ねてくれるパターンもあったらいいな、という思いから生まれた作品です。

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