第13話 風 

         数年前の夏...

        私の母と妹が特に強い霊感を持っていることは
        何度か書いてきたが、この話は二人同時に体験した話...

         その日は、夜になると涼しい風が吹くので
        2階にある私の部屋に続く廊下の窓と
        1階の縁側の窓を開けていた
        それだけでも家中に爽やかな風が入ってきて、気持ちが良かった

         次の日は休日だったので、私は夜遅くまで本を読んでいた
        ふと時計を見ると、午前2時前だったと思う
        キリの良いところで本を閉じて、眠ろうとしたとき
        なぜか1階が気になって仕方がなかった

        怖いといった雰囲気ではなく
        今すぐ下へ行かなくちゃ...といったような...
        せっぱ詰まったような感覚
        
         私は、再び部屋の明かりをつけ、急いで1階へ降りてみた
        
         誰もいない居間に行き、明かりをつけると、1分もたたないうちに
        母が居間へ入ってきた
        ほぼ同じく、妹も来た
        二人とも汗だくになっているのに、青い顔色だった
        雰囲気から、また何かあったな...と思い、思い切って聞いてみた

         二人の話を総合すると、ほぼ同時刻のようだった
        夢の中で風に巻かれ、歩くことも顔を上げて周囲を見ることもできなかった
        息苦しくて目が覚めたら、身体はピクリとも動けない
        それどころか、眼も開かなかったという
        そして...
        部屋中に...夢で見たのと同じような風が巻いているのを感じたと言う
        ところが、風が巻くだけで
        部屋に置いてある、風ではためいたり飛ばされたりするような物が
        動いている気配がなかったと言うのだ
        その風が巻く中、かすかに声が聞こえたらしい
        誰かを呼ぶように...だが、かすかに...男の声で
        「おおーい」
        と... 

         二人とも、何とか動けるようになろうともがいている時
        私が2階から降りてくる音を聞き、そのとたんに動けるようになったと言う
        動けるようになったとたん
        風はピタリと止んだ

         私が居間へ入ったのを確かめ、二人も居間へ来たと言うのだ
    
         だが、私はずーっと起きていたが、そんな変な風は吹いていなかった
        ただ、「どうしてもすぐに1階へ行かなくては」...と思っただけ...

         結局、この出来事が何なのか...わからないままでいる 
        妹は、「何かが通って行ったのかも」とだけ答えたが...