第1話 寝台列車

        5年程前の...夏。
      
       私は某イベントの為に上京。当時2本存在した寝台列車のうち、早く東京へ到着出来る方を

       利用していた。

       その時、私は、B寝台レディースの下のベッドを使っていた。上は友人が使っていた。

       列車がN県へさしかかった頃、私はレールを走る単調な音を聞きながら眠りについていた。

        「それ」に気が付いたのは何時頃だったのか、今では知る由もない。

       私は、圧倒的な「気配」を感じて意識だけが目覚めた。その時は、身体はもちろん、

       瞼すら動かなかった。

       だが「気配」だけは感じていた。「気配」は、私がいる車両の後方隣の車両から来ていると

       確信していた。

       「気配」が私のいる車両に来た。その時私は、ドアが開く音を聞いたのだ。  

       (ドアが開いた...ただの人なのか?)

       直後に混乱しかけたが、すぐに違うことに気が付いた。

       「気配」は、『おーい おーい』と「声」を出して車両内を楽しそうに歩きはじめた。

       (あるいはスキップしながら)

       聞こえてきた「声」は「人」の声ではないと、なぜか確信できた。

       「気配」は、そのまま私の所へとやってきた。びっしりと閉め切ったカーテン越しに

       「気配」が存在することに汗が流れた。

       それは「恐怖感」ではなく「緊張感」によるものだった。

       そして....

       びっしりと隙間無く閉め切っていたカーテンを物ともせず、 「気配」の「手」が入ってきて、

       動けずにいる私の右足....つま先から太股まで、さぁ..っと撫でたのだ。

       その時の「手」の感触は、今でも覚えている...。

       性別はわからないが、5〜7歳位の子供の「手」だった。

        その後「気配」は来たときと同じ様に『おーい おーい』と「声」を出しながら、

        次の車両へと移動していった。

        ドアがまた開き、そして閉まる。「気配」が自分の車両から消えた直後に、

       身体が動けるようになった。

        ものすごい緊張感と混乱から文字通り、飛び起きる勢いで身体が動いた。 

        寝間着は汗だくになり、ただひたすら「気配」が戻ってこないことを祈った。

        私はそのまま眠らず(眠れなくなり)夜が明けるのを待ち続けた。

         列車内にも朝日が射し込む様になり、他の乗客が起き出した頃、

        ようやく安心してカーテンを開けた。

        4つの座席のうち、私とほぼ同じタイミングで向かい側上のベッドのカーテンも開いた。
    
        その座席の女性は、私と目が合うと何か言いたげだった。

        そしてなぜか確信した。彼女も「気配」を感じたのだと....。

        だが、お互い何も言わなかった。言うべきではないと思ったのだ。

         あれから数年....。

        結局「気配」が何だったのか...いまだにわからずにいる.....。