社内のある人に聞いた話です。かなり前のことだと聞きました。
その日、彼は家路を急いでいた。
仕事が終わってからゆえ、時間はとっくに真夜中。
道路を行き交う車はあまりなく、時間はかなり余裕があった。
それでも用事が気にかかり、山間の道路へ入って行った。
その道路へ入ると、30分以上は余裕を持って移動できる近道だ。
通い慣れた道だったし、山間の道路ゆえか
彼の他に車は全くなかったそうだ。
やがて、行く先にはクランク状の曲がり道と
緩いカーブがあるところへさしかかろうとした。
ガードレールは所々にしかない。その先は、さほど高くもない崖と田圃があった。
順調に進むその先に、彼は、ふと違和感を感じた。
そのクランクの突き当たりに、陽炎のようなものが立ち上っているように見えたのだ。
”こんな夜に陽炎?”
その場所までまだまだ距離があったのだが、「陽炎」の様なものはハッキリ見えた。
怖かったが止まりたくないと思った。行き交う車が全くないところに止まりたくなかった。
彼は気にしないようにと心で言い聞かせながら、だんだんとその場所へ車を走らせた。
近づくにつれ、「陽炎」のカタチが分かるようになった。
彼は息をのんだ。
そこにいたのは、おかっぱ頭の小さな女の子の後ろ姿。
かすりの着物に冬物の上着...ちゃんちゃんこ様なものを着ていた。
姿がハッキリ見えたら、彼に恐怖心が浮かんだ。
生きている人間とは思えなかった。まして頃は夏真っ盛り。
あきらかに冬の格好をしたその子供が怖かった。
”振り向かないでくれ。来ないでくれ。”
祈るような心持ちで場を通り過ぎた。
通り過ぎると今度は気になった。
そっとルームミラーで後ろの景色を見ると
女の子は振り向くことなく、陽炎のようにすぅっとかき消えていった。
彼は真っ暗な中、車を駆った。ひた走りに走った。