第28話 M町にて その4

M町へ出かけた日のこと。

行きたくなかったのだが、どうしても外せない用事だったし

車は故障中で修理に出していたので

仕方なく、数年ぶりに路線バスに乗った。

同行者は妹。

たまたま乗ったその路線バスは、M町郊外を巡ってから中心部へ向かうバスだったので

バスはまっすぐ町へ向かわず、山間部へと向かっていた。

季節は秋の夕方。

ぼーっと紅葉景色を眺めているしかなかった。



と、バスがある交差点の信号に差し掛かった時のこと。

反対側の道路沿いに、神社と小さな公園があった。

ボーっとしたアタマに、何か引っかかるものがあった。

目に入ってくる景色は、ごくありふれたものなのに。

何が引っかかっているのか分からなくて、何気なく神社と公園を眺めていた。

公園では、一人の女の子がブランコに乗って遊んでいた。



程なくして信号が変わり、バスが走りはじめたその時。


公園のブランコで遊んでいた女の子が、景色に、空気に溶けていくように

すぅ...っと消えていったのだ。

消える直前、女の子はこちらに気が付いたのか

小首をかしげて、まるで

『何か用?』

と言いたげな雰囲気だったのを覚えている。



パクパクと、まるで酸欠の金魚のようになって驚いていると

妹がさらりと一言。

妹「ああ、お姉にも見えたか」

私「...も?も?」

妹「あの子、いつもいるよ。別に何もしない子だけど」