M町へ出かけた日のこと。
行きたくなかったのだが、どうしても外せない用事だったし
車は故障中で修理に出していたので
仕方なく、数年ぶりに路線バスに乗った。
同行者は妹。
たまたま乗ったその路線バスは、M町郊外を巡ってから中心部へ向かうバスだったので
バスはまっすぐ町へ向かわず、山間部へと向かっていた。
季節は秋の夕方。
ぼーっと紅葉景色を眺めているしかなかった。
と、バスがある交差点の信号に差し掛かった時のこと。
反対側の道路沿いに、神社と小さな公園があった。
ボーっとしたアタマに、何か引っかかるものがあった。
目に入ってくる景色は、ごくありふれたものなのに。
何が引っかかっているのか分からなくて、何気なく神社と公園を眺めていた。
公園では、一人の女の子がブランコに乗って遊んでいた。
程なくして信号が変わり、バスが走りはじめたその時。
公園のブランコで遊んでいた女の子が、景色に、空気に溶けていくように
すぅ...っと消えていったのだ。
消える直前、女の子はこちらに気が付いたのか
小首をかしげて、まるで
『何か用?』
と言いたげな雰囲気だったのを覚えている。
パクパクと、まるで酸欠の金魚のようになって驚いていると
妹がさらりと一言。
妹「ああ、お姉にも見えたか」
私「...も?も?」
妹「あの子、いつもいるよ。別に何もしない子だけど」