第30話 通りすがり

Eが言うには

「よく通りすがりのが来る場所」といったスポットがあるらしい。

勤め先にも、そんな場所があったと言う。



ある日

仕事に少し余裕ができたEは

ふと、窓の外を見た。

会社のそばには、大きい道路に面した空き地があり

ぼんやりと眺めていたところ

ふいに、全身に鳥肌が立ったと言う。

"何か来る"

Eは、そう感じた。

程なくして、歩道を歩く女性が見えてきた。

20歳になったかどうかくらいの若い女性。

俯いているのはわかったが、表情はわからなかった。

何かを探しているのか、下を向いたままゆっくりゆっくり歩いていた。

が、その女性が近づくにつれ

はっきりとわかった。

歩いているように見えていたが、実は

宙に浮いたまま、滑るように移動していた。

Eは

"やばいっ!気がつかれたら大変だ"

と、感じたと言う。

Eは、知らないふりをしながら、ちらちらと様子を見た。

が、その女性は、Eが見ているのに気がつかないのか、興味が無かったのか

俯いたまま、ゆっくりと空き地のそばを歩き

そのまま消えた。



またある日には・・・

仕事中、Eは自分の後ろに人の気配を感じた。

忙しくて周りを見ている余裕などなく、そのままほっといていた。

たまに、仕事をサポートしてくれる人や

上司が来ることはあったが、その気配とも違っていたと言う。

そもそも、自分の後ろは壁しかないのだそうだ。

忙しかったが、どうしても気になって

そっと振り向いてみると、そこには

年配の男性が、壁から頭だけ出して

社内を見ていたそうだ。

Eは驚いたが、その男性はEには目もくれず

ただ社内を眺めていただけなので

気味悪いと思いつつも、仕事をしていたそうだ。



「通りすがりってわかっても、やっぱりびっくりするわ」

と、さらっと言うE。

自分は、そのての物が見えなくて良かったなぁと

つくづく思った。