第31話 骨董品

知人に聞いた話。



ある家族の旦那さんが、骨董商におだてられて

『にわか骨董収集家』になり

価値があるかどうかもわからないまま

いろんなものを収集するようになった。

当然、家族は怒ったが

旦那さんは聞く耳持たないまま、収集に精を出していた。



そんなある日のこと。

その旦那さん、家族の前に

小さな桐の箱を大事そうに持ってきたそうで

曰く

「江戸時代から伝わる珍しいものを手に入れた」

と、うれしそうに見せ始めたそうだ。

家族は「またくだらない物を」と相手にしなかったが

その旦那さん、嬉々として箱から出して見せた物が

くすんだ赤い文字が書かれたボロボロの和紙2〜3枚と

3cmあるかないかくらいの仏像だった。



その品物を出されたとたん

奥さんと娘さんは直感で

”これはヤバイ物だ”と、思った。

家族の冷たい視線を無視し、その旦那さんが語ったことが

「江戸時代、打ち首になった人の血で書いたものと

お守りの仏像なんだぞ」と。

当然家族は、そのようなものを家の中におくことに大反対したが

旦那さんは全く聞き入れず

大事そうに骨董品としてしまいこんだ。



それからである。

3日も経たないうちに、家の中で怪異が起こり始めた。

まずは、旦那さんが骨董品をしまいこんでいる部屋で

誰もいないはずなのに、畳をあるく衣擦れの音が聞こえたり

壁や扉を叩く音が聞こえてきた。

やがて

奥さんが、毎日のように悪夢にうなされ始めたり
(目が覚めると夢の内容を覚えていない)

娘さんが毎日金縛りにあったりと

旦那さん以外の家族が、いろいろな怪異に晒されるようになった。

明らかにあの気味の悪い骨董品が来てから

こんな怖いことが起こっていると

旦那さんに訴えたが

自分に何も怪異が起こらないせいか、全く聞き入れなかった。

が、ある日

その旦那さんも異様な事態を眼にすることになった。



ある休日の朝。

娘さんがなかなか起きてこなくて

起こしに行こうかと部屋へ行きかけたら

娘さんがフラフラとした足取りで、部屋から家族の前に来た。

が、何か様子がおかしい。

固唾を呑んで見守っていると

娘さんは、まるで眠っているかのような表情で

フラフラと居間に歩いてきて

座っている家族、あの骨董を買ってきた旦那さんに向かって

内容は聞き取れなかったが

まるで男の声のような低い声で、ブツブツと何か呟いていた。

目は閉じている。が、起きてきた。フラフラとだが。

何かわからないことを違う声で呟いている。

この様子を目の当たりにして

旦那さんも奥さんも、呆然としているしかなかった。

やがて、その状態が1分ほど経つと

娘さんは突然、その場に倒れこんだ。

慌ててゆすり起こしてみると

その娘さんは、今度はちゃんと目が開き

開口一番

「私、何でこんなとこで寝てるの?」

と、言った。



やっと怪異を認めた旦那さんは

いわくつきの骨董を、骨董商に引き取らせた。

それからようやく、家の中が平和になった。

もっとも、この陰には奥さんの一言の

「骨董をとるか、離婚届をとるか、選べ」

が、あったらしいが(笑)