第3話 M町にて



           M町..と言う小さな町

         そこは、その手のマニアにはちょっと名の知れた町だということを知ったのは

         ずいぶん後のこと...

           
           私が二十歳前の頃...

         当時、車を運転するのが楽しくて、休日となると友達とドライブに行っていた

           それは6月頃だったと思う

         Y市から友達が遊びに来ていて、総勢7人で真夜中のドライブへと出かけた

         目的地はS市近郊のM町

         以前から怪奇現象の噂が流れており、無謀にもそれを見に行くこととなったのだ

         イヤな予感はあったものの、その場のノリで決行

         車2台で出かけた


           M町はS市から車で20分ほどの所にある

         たったそれだけの差なのにそれまでの星空が、M町に着くと

         とたんに濃い霧の中となった

         その霧も異様だった

         どこからともなく、まるで、コーヒーにミルクを溶かしたように流れてくるのだ

         M町の中心地の公園に私達は到着した

         時間は..おそらく1時すぎ..

         ..そしておそらく..10分間もそこには、いなかったと思う

         なんとなく感じたのだ

         私達以外の「何か」の存在

         鳥肌が立ち、後ろ髪の生え際がチリチリと静電気でも感じているような感覚

         霧はますます濃くなり、視界が白一色になりかねなかった

         場の雰囲気の異様さに圧倒され、急いで車を出した


         公園を離れると霧が少し薄くなり、私はホッとした

         そして信号が赤から青へ変わるのを待っていた時のこと....


         信号待ちをしていると、車の左側から

         圧倒的な「何か」の視線を感じた

         それは「こちらを見なさい」といった、圧倒的な雰囲気 

         その時私は、「恐怖」よりも強い「好奇心」が押さえきれなかった

         「ちょっとごめんね」

         そう言って助手席に座っている子に、少し場所をあけてもらって

         窓の外..住宅の1階の屋根を見た

         そこには着物を着た半透明の女がいた

         しかも、顔は口元しか見えない...あとは透明になっていてわからなかった

         その「女」は私に気がつくと(気がついたと思う)

         ニヤリと笑ったのだ


         この間、約3秒

         
         真夜中で私達以外の車もなく、信号が青になった直後

         私は声を出すのも忘れ、シートベルトもしないまま

         車を急発進させた

         思いはただ一つだった

         「早く逃げなきゃ...!」 

         
           M町を離れると、星空になった

         私は、急発進した理由を言わないままS市へ戻り

         友人宅ですべてを話した

         すべて話した後、Y市から遊びに来ていた友人が言った

         「...公園にあのままいたら..まわりを取り囲まれるところだったんだよ」

         「何に?」とは聞けなかった


          おそらくこれが、私が見た、初めての「幽霊」だったのだろう