第5話 屋根 

             数年前の...秋の彼岸の頃

           
            連休となり、友人達と休日が重なったこともあって、ドライブへ出かけた

            丸一日かけて遊びに行き、S市へ帰ってきた時には真夜中の12時を

            過ぎていた

            それは友人達を家まで送って行く途中のこと...


             真夜中とはいえ、車が割と走っているし、途中の信号も面倒だったので

            大きな道路と住宅街の隙間にあった細い道へと、車を走らせた

            若干、一時停止する場所があったが、それでも快適に走っていた


             あと少しで友人宅へたどり着く..その手前..


             私は妙なモノに気がついた

            それは走っている先に見える、とある住宅の屋根

            そこに立っているTVアンテナ...

            
            はじめは、ビニール袋がアンテナに引っかかっているのだと思った

            それだとしても奇妙な形だと思い、車の速度を15km/h程にまで落として

            そのTVアンテナを見つめた


              「それ」はまるで、風に漂う布のようにユラユラとTVアンテナの上で揺れていた

            そして唐突に気がついた

            たとえビニール袋が引っかかっていたとしても、アンテナの上に

            「立って」いるはずがない....と

            
              気がつくと「それ」が何なのか、おぼろげに理解した

            ユラユラと揺れている「それ」は人間のシルエットだった

            たぶんアンテナに立ったまま、夜空を見上げている様子...

            
              そして「それ」は私に気がついたのだろう

            ユラユラ揺れながら、ゆっくりと..ゆっくりと下を見る様なシルエットへと

            変化した


              私は「それ」から目をそらし、一気にアクセルを踏み込んだ


            私の変貌に友人達は驚いていたが、そのうちの一人がぽつりと呟いた

            「屋根...見たんでしょう?」
 
            私は何も答えられなかったし、その夜は屋根を見るのがひたすら怖かった...