IAJ第3回小中高校の先生のためのインターネット研修会(1996.8.3)発表
山形県西置賜郡小国町立白沼小中学校 教諭 今 琢生
1.ダイヤルアップのインターネット利用
白沼小中学校は山形県の新潟県境に近いところに位置し、児童生徒32名のいわゆる小中併設山間部僻地校です。飯豊、朝日連峰に挟まれ、冬は積雪3メートルにも達する豪雪地帯で、どうしても小中9年間限られた人間関係の中での生活になりがちです。インターネットを通じて外部と交流しながら学習することは、本校の児童生徒にとって大変有意義なことではないかと考え、個人研究(機材・経費は個人負担)として可能な範囲でインターネットの活用を試みています。(現在本校は電話回線1本、生徒用MS-Dosパソコン5台、ソフトは学校独自では購入できずハイパーキューブのみ所有)
昨年から現在の学校勤務となり、小規模校であることから、自分のパソコン1台持ち込んでも何かやれそうだと考え、選択理科の活動で学校付近の植物調べに活用させて見ました。調査結果をパソコンにまとめ「電気植物図鑑」と名づけ文化祭で展示しました。
この取り組みに対して、ある方からインターネットのWWWを活用して発表してみてはどうかというアドバイスをいただき、昨年12月に教育関係者の研究会である、新潟インターネット教育利用研究会(ホームページのURL:http://toki.ed.niigata-u.ac.jp/home.html)に県外から参加させていただきました。
新潟大学へダイヤルアップしてインターネットに接続できるようになり、新潟大学のサーバをお借りして本校のホームページ(ホームページのURL:http://toki.ed.niigata-u.ac.jp/~kon/home.html)を起ちあげるに至りました。学校にデスクトップパソコンを置き、ノートパソコンを使用してデータの運搬、送受信を行っての活用です。
機材も電話回線も私物を使用した個人研究的な取り組みですが、校長の許可を得て白沼小中学校の名前でホームページを公開しています。
新潟までのやや遠距離のダイヤルアップでインターネットに接続していたわけですが、この春やっと市内通話料金で接続できるプロバイダが営業を始めました。現在はこの地元のプロバイダの協力を得て、教育関係者の私的な研究会である山形置賜インターネット教育利用研究会(ホームページのURL:http://www.akina.or.jp/~once/index.html)を結成し、教育利用割引料金で接続しています。6月末に説明会を行い、現在約40名の会員でメーリングリストを利用した情報交換等を行っています。
これまで情報発信型の活用であることもありますが、本校程度の規模の学校では、アナログ回線のダイヤルアップ接続でも十分活用できるように思います。デジタル回線が使用できれば情報受信型でも快適に活用できるであろうと考えられます。この半年で本校職員もインターネットの教育利用の有効性を理解するに至り、学校からダイヤルアップできる環境を整えたいと考え、今回のコネットプランに応募しようとしましたが、残念ながら2年目、3年目の予算のめどが立たないということで応募することができませんでした。
2.白沼小中ホームページの内容
この半年間に紹介してきた内容です。最初は生徒の作品を私がデジタル化して作成していましたが、今年度に入ってからは、生徒もワープロを打ったりデジタルカメラで写真を撮ったりして作成作業に参加しています。
「平成8年度学校要覧」 学校要覧の内容を移植したものです。
「白沼の冬」 小学校社会科の資料として使ってもらえたらと話し合い、学校の雪下ろしや冬の生活の様子を紹介しています。
「なぞなぞ歌」 小学校6年生の国語作品です。他校児童との交流で少人数の国語学習をカバーできないかという試みです。交流の様子も紹介しています。
「電気植物図鑑」 中学3年選択理科の学校周辺の植物調べです。「この花の名前を教えて下さい。」という質問にたくさんのヒントをいただき、その後の学習につながりました。
「白沼動物園」 ニホンカモシカ、テン、タヌキ、フクロウなど、白沼小中学校にあるはくせいについて調べました。中学3年選択理科第2弾です。
「大地の変化の学習」 中学校3理科単元で活用している地域教材を公開し、意見をいただこうと言うページです。
「国道清掃」 毎年2回国道沿いのゴミ拾いをしています。この活動を紹介しながら、ゴミ問題について意見交換しようと言うページです。
「全校わらびとり」 春の学校行事の紹介です。ワラビを採集してから商品にするまでの過程を紹介しています。
「ようこそ白い森の国へ」 小国町の自然や文化、施設を紹介しています。
「理科の部屋」 福島県葛尾町立葛尾中学校、渡部先生が中心となって運営しているインターネット版【理科の部屋】と連携した教材研究を行っています。
3.実践事例
●「電気植物図鑑」 大学と中学校がつながっているなんて
生徒が作成し文化祭で発表した学校付近の植物画像データベースから、春の花にしぼってHTML化したものです。
この中に調べてもわからなかった花の名前を質問しているページがありますが、研究会のメーリングリストやニフティーサーブの教育実践フォーラムなどを通して見て下さるように呼びかけたところ、10通ほどの感想や励まし、植物名を決めるヒントなどのメールをいただきました。
プリントアウトしたものを生徒に渡したり、理科室に掲示したりしたところ、生徒は自分たちの活動に対して瞬時に反応があったと大喜びでした。さらに、いただいた情報を参考にして、植物調べのポイントについて生徒達がまとめ直し、ホームページにつけ加えました。これは今年度の学習活動にも参考になっています。
中には親切に画像で説明して下さった方もいて、この画像を見たときには私自身うれしさと驚きで大変興奮してしまいました。大学の植物専門家の方からも詳しいメールをいただきました。中学生と大学の先生が対等の関係で直接やりとりしながら進める学習を教師が横から支援するという形になったわけです。
「電子メイルありがとうございました。大学と中学校がコンピューターでつながっているなんて、考えるだけでも楽しくなります。少しでも皆さんの勉強に役立てばさいわいです。」
これは生徒のお礼のメールに対していただいた返事の一部です。
後日アメリカの学生から、スミレの画像を使わせてもらったというお礼のメールも届きました。
●「白沼動物園」 地域情報の発信は地域理解につながる
この冬、学校向かいの山の斜面にカモシカが出現しました。大雪の夕暮れ時で撮影には失敗しましたが、双眼鏡でしっかりと観察することができました。
本校にはこのカモシカの剥製が展示してあるのですが、「カモシカの剥製がある学校なんて珍しいのではないか、校内のあちらこちらにおいてある動物の剥製と一緒に紹介しよう。」と話し合いました。
あらためて聞いてみたところ、選択理科の生徒たちは、展示してある剥製の名前をほとんど答えられませんでした。中学2年理科の動物単元で学習資料として利用してもらえるような内容をめざし、調べたことをホームページにまとめました。
まだ外部の学校で利用してくださったというメールは一通しか届いていませんが、身近なものを外に向かって紹介しようとすることで、これまで何となく眺めていたものを詳しく見つめることができました。これは今年度の2年生の学習に大変役立ちました。
こうした身近な事柄を詳しく見つめ地域情報として発信することは、その手応えが戻ってくることによって、自分の住む地域の自然や文化の特徴や素晴らしさを、客観的に確認することにつながるのではないかと考えています。こうした活動を通して、自分たちの住む地域に誇りを持たせることができたら素晴らしいと思います。
●「国道清掃」 黙ってないで呼びかけよう
学区域を通る国道113号線は、新潟と仙台を結ぶ輸送路でもあり、トラックなどの交通量が多い道路です。残念なことにドライバーのモラルの低さから、道路沿いのゴミの投げ捨ては目に余るものがあります。
各地で取り組まれているように、本校でも生徒会が中心になって年2回の国道奉仕清掃を行っています。昨年度から生徒会で「ただゴミを拾うだけでなく、ゴミを捨てる人がいなくなるように呼びかけていこう。」という話し合いがもたれ、旗や立て札で呼びかける活動を始めました。
この考え方に沿ってインターネットでも呼びかけてみようと話し合い、ホームページに国道清掃の様子と生徒の感想、メッセージを載せることになりました。
この活動では、できるかぎり生徒たちの手でホームページを作成させてみました。生徒たちは大変意欲的で、自分たちの気持ちをうまくメッセージに載せようと、いろいろなアイディアを出し合い、楽しみながら活動していました。ホームページづくりには表現力の育成という側面もあるかなと感じています。
このページの内容をもとに、ゴミ問題や環境問題について外部と意見交換しながら交流させたいと考え、環境教育関係のホームページを開いている学校等に呼びかけたところ、いくつか反応が届きました。現在、交流が始まっています。
●「大地の変化の学習」 ネットワークで
教材研究
本校のある地域は山形県内では最も古い地層が露頭としてみられる地域です。3年理科の地学単元において、こうした地域教材を活用したいと考え情報収集してみました。地学に詳しい方や、専門家に意見をいただき、よりしっかりしたものにできたらと考え、ホームページに公開してみました。このことについてニフティーサーブの教育実践フォーラム等で助言を求めたところ、多くの情報を得ることができました。
一つの例ですが、岩石の研究化でホームページの情報に興味を持って下さった方からメールをいただき、わざわざ東京から訪れ、私が案内する形で実際にフィールドワークを行いました。そして持ち帰った岩石の組成データをメールでいただくということにまで発展しています。また、地形CGの作成や活用についても、ネットワーク上で別の方から教えていただき授業に活用できています。
こうしたことは電子ネットワークの活用がなければ起こり得なかったことです。本校のような僻地の学校でも、いつでも他校の先生方や専門家と相互に交流できることは大変心強いことであると感じています。
現在たくさんの教材開発の報告や授業実践例の報告がWWW上で行われていますが、インターネット版【理科の部屋】を中心にして、単元別資料集のようなページをまとめようという共同研究も始まっています。人と人とのつながりを拡張する電子ネットワークは、教材研究の情報交換をささえるものとしても、とてつもない可能性を持っていると言えると思います。
4.今後の課題
日頃、生徒と教師が学校の中で意見を出し合ったり、作品を紹介し合い感想を述べ合ったりして学習しているわけですが、この半年の試みを通して、インターネットはこうした人間関係も拡張してくれるものであることを実感しています。特に本校のような小規模校では威力を発揮してくれるものであることは間違いないことのようです。
学習は生徒自身にとって蓄積されていくものですが、これまでの取り組みは、全国への情報発信と同時に、白沼小中の学年から次の学年に伝えられる学習の蓄積でもあると思います。また、この蓄積は全国の学校で共有できる学習情報でもあるわけで、各校の取り組みが全国に紹介され、リンクされていくことにより壮大な教育実践のデータベースになるはずです。そんな、可能性を感じています。他校でも活用できるような価値のある内容にしていきたいと思います。
今後こうした電子ネットワークを活用することが当たり前の社会になるのであれば、電子ネットワーク上でも、人間関係を広げたり信頼関係を築いたりできるように、人との関わり方を経験的に体得させることが大切であると考えています。これも生きる力につながるものではないでしょうか。
本校の場合、まだ生徒が直接インターネットにアクセスできる環境になく、今回紹介させていただいた活用の事例も、間接的な情報発信が中心になっています。インターネット上の限りない情報から自分の必要とする情報を探して学習を進めるような取り組みはできていません。まだまだ私個人レベルでの活用の試みですが、本校の地域でもインターネットの教育利用の有効性について広く理解していただき、学校設備としてインターネットに接続利用できる環境が得られるように働きかけていきたいと思います。