子供たちを主役にしたネットワーク&コミュニケーション

小国町学校教育研究所派遣研修報告

平成7年9月 小国町立白沼中学校 今 琢生


1.はじめに
 コンピュータ通信ネットワークを活用し、子供たちが主体となった学校間交流を行なう教育プログラム「アップル・メディアキッズ」が、一昨年10月から試験運用を行い、この春からは一般にも参加校を募集しています。「メディアキッズ」は全国の小中学校をコンピューターネットワークで結んで、児童や生徒が自由自在にアクセスし、文字や画像や音声を使って情報や意見を交換しようというものです。以前からこのプログラムには新聞や雑誌などで注目していましたが、今回、町研派遣研修事業により、10月19日玉川学園小学部、20日渋谷区立神宮前小学校と、プログラムスタート時からモデル校として参加している二つの学校を研修視察する機会をいただきました。以下に2校の実践を紹介いたします。

2.玉川学園小学部「学校と父母が近くなった」
 幼稚部から大学までの一貫した教育実践で有名な学校ですが、今回まず、その広大で美しい学園環境に目を見張りました。コンピュータの通信メディアとしての重要性と将来性に注目し、コンピュータ教育の指針の一つにコミュニケーションを置き、学習への積極的な活用を図ってい「るとのことでした。
 コンピュータの設置環境としてはコンピュータ室だけでなく廊下や教室などにも数台ずつ設置されており、それらが全てネットワークでつながっているとのことでした。さらに、各家庭や購買部のパソコンとも電話回線を通してつながっているそうで、ネットワークの活用についていろいろなエピソードを聞かせていただきました。
 メディアキッズの活動は、メインとなる子供たちの活動領域とそれを支える教師の活動領域に大別し、それぞれ「いろいろな学校」「わいわいクラブ」「先生の部屋」といった部屋で構成しているそうです。それらの部屋の中には、細かいテーマ別に「会議室」が設けられ、実際に送信Mされた電子メールや画像などの添付ファイルは、そこに蓄積される仕組みだそうです。例えば北海道の学校では、北海道東方沖地震の被害を児童生徒の体験談や画像データにまとめ、「いろいろな学校」に登録しており、これらの記事に対して全国の参加校からは多くの反響が寄せられ、それらのデータを校内で紹介するなど、通信ネットワークならではのリアルタイムな情報伝達・情報活用が行なわれているとのことでした。また、学校紹介のなかには、熊本県ではみかん、北海道では酪農というように、それぞれの地域における気候・産業・歴史などの特色が生カかされているそうです。
 学校と保護者間のネットワーク活用は、気軽な話題で、ざっくばらんな雰囲気の情報交換になっているというお話でした。学校行事の準備について話題にしたり、国語の先生が、子どもに読ませたい本について書き込んだり、「ランドセル要りませんか」という書き込みがガレージセールに発ュ展したりといったエピソードを聞かせていただきました。また、道徳のディベートをネットワーク上で行い、それに家庭から保護者も入り込んだり、家族で演劇を見た感動を絵に描き、家からネットワークに載せたところ、それを見た校長先生からほめ言葉のコメントが付いたなど、子どものフリートークに、親、教師が自分のスタンスで自然に入り込んでいる様子でした。保護者から「学校内の様子がよく分かるようになり、学校と家庭が近くなった。」という声が上がっているというお話も聞かせていただきました。
 子どもはいたずらを書き込んだりしないか質問したところ、一人一人の発言に自動的に名前が付くしくみになっているので、そういうことはないという答えでした。
 開かれた学校として、コンピュータネットワークが自然な形で活用されており、今後の学校のあり方を見たような新鮮な驚きを覚えました。

3.渋谷区立神宮前小学校「パソコンの設置形式が問題」
 原宿駅前、表参道から小路地をほんの少し入ったところにある学校です。文部省指定の算数教育研究校で忙しく、なかなかパソコンの活用実践が深められないと言いながらも、しっかりした活用計画を見せていただきました。
 こちらの学校でも、ネットワーク通信に興味を持った児童カが積極的にメディアキッズの会議室に書き込みをしているそうで、その交流から、ザリガニの捕まえ方や飼い方が地方によって違うことに気付いた児童のエピソードなどをお聞きしました。ただ、パソコンがコンピュータ室に全て設置されており、曜日を決めてクラス毎に使用時間を割り振っているために、他の学校の児童から返事が届いていても、それを読むのが遅れてしまい、せっかくのネットワークの即時性を生かせないのが問題ということでした。パソコンを各教室に分散させて設置したいが、区の設置基準などもあり、なかなか思うように行かゥないという悩みを聞かせていただきました。
 これらの活動はすべて、「ファーストクラス」という通信ソフトによって運用されているそうです。このソフトの大きな特徴は、ユーザーインターフェイスの良さにあり、このため文章入力以外の操作は小学校低学年でもマウスを使って簡単に行なうことができるとのことでした。

4.おわりに
 今回の研修を通して、パソコンをコミュニケーションの道具として使うことは、子どもの学習の範囲を広げることだけでなく、学校と家庭の連携を深めることができる可能性も持っていることを実感しました。また、こうした活用のためには、パソコンを一つの教室にまとめて置かずに、各教室に分散して設置した方が効果的に利用できることを再確認しました。
 小規模校の多い小国町で、ネットワークを利用し、他の地域の児童生徒達と情報交換しながら学習を行うことができれば、たいへん意味あることではないかと考えました。今後、コンピュータネットワークの教育利用について個人でも可能なことから実践研究を行っていきたいと思います。
 最後になりましたが、このような研修の機会をいただいたことに感謝いたします。