「大地の変化」における地域教材の収集と活用
─電子ネットワークも活かしながら─
山形県中学校理科研究発表誌第38号掲載

小国町立白沼中学校 教諭 今 琢生 1998.1.24 UP 


1 はじめに

 数年前、山形県南部で○月○日に地震があるとの噂が流れ、新聞・テレビ等に取り上げられるほどの騒ぎとなった。あるパソコン通信の会議室でもこの事件が話題となり、次の発言が強く心に残った。「こういった混乱を防ぐためには、うわさに踊らされることなく、常日頃から災害に備える心構えを持つことが大切であり、理科教育における責任が大きい。」

 この発言を受け、中学3年2分野「大地の変化」の学習において、身近な地域の地形や地質について理解を深め、予測される災害に対して備えようとする態度を育てることが必要ではないかと考え、地学分野の苦手な私なりに、地域教材の活用に取り組んでみた。

 教材研究・授業を進める上で、パソコン通信やインターネットを介して多くの方々に支援をいただいている。そうした情報交換の様子も交えながら、表題についての試行を紹介したい。

2 ネットワークを活用した教材研究

2-1.参考文献の収集

 最初に参考文献の収集に取り組んだ。小国町研理科部の先生方をはじめ、パソコン通信NiftyServeのサイエンスフォーラム地球科学会議室、教育実践フォーラム【理科の部屋】へ参加している方々からいくつかの文献を紹介していただくことができた。高校生向けの地学の参考書を片手に読み進めた。

【主な参考文献】

「小国町史」小国町史編集委員会・小国町
「山形の大地」山形応用地質研究会10周年記念誌
「新編日本の活断層」東京大学出版会
「変動する日本列島」藤田和夫・岩波新書
「地すべり山地災害の地質学」藤田崇・共立出版
「山形の理科ものがたり」県小教育研理科部・日本標準
「活断層とは何か」池田安隆他・東京大学出版会
「山形の地質をめぐって」吉田三郎他・築地書館
「山の地図と地形」田代博他・山と渓谷社
「飯豊山地域の地質」高橋浩他・地質調査所
「地震と土砂災害」建設省河川局砂防部
「日本古生物図鑑」藤山家徳他・北隆館
「広報おぐにNO.497」

2-2.電子ネットワークを活用した情報交換

 パソコン通信NiftyServe教育実践フォーラム【理科の部屋】ではオンライン学習会が行われている。藤田和夫著「変動する日本列島」をテキストとした、第二期オンライン学習会に参加したところ、テキストには難解な部分が多かったものの、全国の方々からネットを介し、解説していただきながら読み進めることができた。

 百聞は一見しかずである。小国町研理科部の研修会で行われた地質フィールドワークは大変参考になった。その他にも、地域の山に詳しい保護者の方の案内で化石採集に出かけたりしながら、私なりに集め整理した地域教材を本校ホームページ(http://toki.ed.niigata-u.ac.jp/~kon/home.html)上に「理科準備室」を設け紹介してみた。パソコン通信の会議室に見て下さるようお願いの書き込みをしたところ、詳しい方々からいくつかの有用なコメントをいただくことができた。これがきっかけになり、東京在住の地質研究者が、研究用岩石のサンプリングを兼ねてわざわざ訪れて下さった。地質に明るい方と二日間一緒にフィールドワークを行う機会を得て、実に多くのことを教えていただくことができた。

3 授業実践

3-1.指導にあたって

 指導にあたり、次の事項を頭に置きながら指導計画を組み学習を進めた。

  1.  本校の学区域である白沼地区は、国道113号線沿いに古生代から第三紀の地層が順に分布している。研究者も多く入っており、地学を語る上で、県内では大変重要な場所であると聞く。地域教材を可能な限り取り入れることで、生徒の興味関心を高めるとともに、地域の地質的な特性を理解させたい。
  2.  大地の動きを現在進行形でとらえさせ、常に防災意識を持って生活する態度を育てることがこの単元の大きなねらいであると考える。そのためには、火山や地震を、地球内部のエネルギーと関連づけてとらえさせることが重要である。身近な事柄の観察から発見した事項を、プレートテクトニクスなどのグローバルな考え方で説明できるような学習の流れをつくりたい。
  3.  教師の力量を越える学習課題であっても、インターネット等の電子ネットワークを介し、専門家や研究者の助言を得ることことによって解決を図り、生徒の興味関心と課題追求意欲に応えたい。協力者には事前に計画を提示して学習の進展に見通しを持てるよう努め、単元によっては時空を越えたテームティーチングの様な授業形態を組む。また、学校外部の地質研究者と交流を持つことによって、私達の住む地域が地質学を志す人々に注目されていることを実感させ、地域を見つめる新たな視点を持たせたい。

3-2.小国町の火成岩調べ

 小単元「火山」について8時間の指導計画を設定した。主な学習活動は次の様であった。(括弧内は別時間での選択理科グループの活動)

  1.  VTR、写真で火山の形と噴火の様子を見て気づいたことを話し合う。火山の3タイプを言葉にまとめる。
  2.  標本の観察から火山岩と深成岩のつくりのちがいを見いだす。実験を行い、冷え方の違いによる結晶の違いを確認する。
  3.  小国には火成岩があるかどうかについて話し合う。小国の火成岩標本を観察し、火山岩と深成岩に分類する。(ホームページ作成
  4.  小国の地質図と地形図から高い山に深成岩があることに気づき、火成岩の現れ方について話し合う。
  5.  火山岩と深成岩の標本の観察から、色の違いに注目し、有色鉱物と無色鉱物の含まれる割合によっても分類できることを知る。パーフォーマンステストを行う。
  6.  火成岩をつくる鉱物について、標本や資料をもとに6種類の鉱物について特徴をまとめる。
  7.  普賢岳の火山灰を双眼実体顕微鏡で観察し、含まれる鉱物を調べる。
  8.  小国町内で採集した火成岩について得られた情報を整理する。新たな視点に沿って採集した岩石を観察する。花崗岩に含まれる鉱物を調べる。岩石薄片を作る計画を立てる。(岩石薄片作成・ホームページ作成

 第3時では「地域の火成岩を詳しく観察し分類しよう。」という学習課題を立て、小国町内で採集した火成岩らしい岩石を観察し、既習事項から深成岩と火山岩に分類する活動を行った。自分の住む地域に火山活動があったなどとは考えもしなかった生徒達は、身近に火成岩らしきものがあることに興味を持って観察に取り組んだ。それぞれの生徒が、岩石の分類の仕方について自分なりの意見を持つことができたところで、「私達の分類の仕方が正しいかどうか、インターネットを通して詳しい人に見ていただこう。」と誘いかけ、選択理科の3人の生徒達が、岩石の観察結果と自分達の考えを発信するためのホームページ作成を請け負うことになった。選択理科の3人は岩石のクローズアップ写真の撮影に苦労していたが、私も手伝い「小国町の火成岩調べ」と題したホームページが出来上がった。

 こうして生徒たちが発信した岩石の分類の仕方に対して、事前に協力を引き受けて下さっていた方々は、さっそく示唆に富んだメールを送って下さった。

 その後、火成岩を構成する鉱物に目を向けて学習を進め、基本事項を整理したところで、いただいたメールを印刷し生徒達に渡した。これらのメッセージは、もう一度岩石を観察しようとする意欲を生徒達から引き出し、生徒たちはメールの情報を基に、観点を整理してもう一度岩石の観察に取り組み、新しい発見を得ることができた。以下はその電子メールでのやり取りの一部である。

『この石は、深成岩と火山岩の2つの意見に分かれました。深成岩だと思った人の理由は斑晶が大きく見えるからです。火山岩だと思った人の理由は石基があるように見えたからです。先生は、「火山岩(安山岩)ではないかと思うが自信がない。」と言っています。学校近くの河原で拾った石です。』 本校生徒

『岩石名:火山岩(安山岩) 理由:大きい斑晶と石基がある斑状組織をしているように見える。石基中に丸い穴がいくつか空いていて(ガスで発泡した穴),穴の内側に白い鉱物(たぶんフッ石)がくっついている。』 山形大学 川辺孝幸先生

『 岩石Aは,この画像からは,火山岩の安山岩だと思われます。しかし,この岩石も変質しているため,はっきりと判断できませんでした。』 新潟大学理学部地質科学科3年生

『もう一度観察して確認できたこと・石基中の丸い穴とその中の白い鉱物がついている。・斑状組織をしている。』 本校生徒

 山形大学の川辺先生は、岩石同定のために手軽に岩石薄片をつくる方法を自身のホームページに紹介して下さった。選択理科の生徒達による少々厚めの岩石薄片の完成後、本校ホームページにその顕微鏡写真を追加掲載した。川辺先生はこれらに対する解説も画像付きで自身のホームページ上で解説して下さった。こうして得た知識は、私にとっても貴重な財産となるものであった。

 生徒達は分担して、協力して下さった方々にお礼の電子メールを送った。その一通を紹介したい。

「私は、今回火成岩の種類を比べて、自分でも火山岩か深成岩の最低2種類には分けることができました。私が予想していた石は4つのうちの3つ当てることができ、とても感激しています。今は道ばたに落ちている石が、火山岩なのか深成岩なのか考えることが多くなりました。薄片を作って詳しく調べる方法など教えて下さり、ありがとうございました。」3年YW

 進級論文作成のために本校周辺の地質調査を行っていた新潟大学の学生グループが、後日、本校を訪れ学習会を持って下さった。夏の調査の成果である地質図や自作の岩石薄片、偏光顕微鏡数台まで準備して下さり、生徒たちは熱心に説明に聞き入っていた。自分達の住む地域の地質をこんなにも一生懸命に調べている人達がいることに感動し、地域を見つめる目も少し変わってきたように感じている。

3-3.学校周辺の地層観察

 小単元「地層」の学習では、国道113号線沿いの地層観察を行った。国道に沿って西へ行くほど古い時代の地層になり、観察結果から褶曲や断層など大地の変動があったことを推論させた。この様子も選択理科の生徒の手でホームページへ掲載した。

 これに対し、礫岩の地層(眼鏡橋層)について、山形県内では眼鏡橋層とほぼ同じ時代のものが温海周辺の海岸や一霞などに広範囲に分布していること等のコメントが寄せられた。

3-4.地形の学習へのCG画像の活用

 国土地理院発行の数値地図を3Dレンダリングソフトでコンピュータ処理する事で、立体地形図の作成ができる。簡単な操作で、自分の住む地域の地形を上空いろいろな方向から可視的に見たCG画像を作成することができるのである。

 小国町史に次のような記述がある。「この地域には三つの主要な断層線が三本通っている。すなわち、地域のほぼ中央を北北西から南南東に走る越戸断層と、地域の西側をこれとほぼ同じ方向に走る金丸断層及び東端の山麓沿いにおおむね南北方面の小国断層によって構造的に三地域に分かれる。」

 東北地方ではプレートの動きによって、東西に圧縮されており、長井盆地のように、盆地の西縁に活断層が走っている例が多い。小国盆地西縁についても同じことが言えるように読みとれる。それでは、小国盆地を上空から見た画像から断層地形が読み取れるのではないかと考え、前述の方法で鳥瞰地形図を作成した。視点を平行移動して複数の画像を作成することで、簡単に立体視することもできる。

 これらの画像と地質図を併せ見ることで、小国盆地西縁の花崗岩と第三期層の境目に大規模な地滑り地形が並んでいることを読みとらせることができる。本校周辺には地滑り観察区域であることを表示する立て看板もあり、これらを教材として活用し、土砂災害へどう備えればよいか話し合うことができた。

 これらの画像もホームページ上に公開したところ、小国の地形や地質について次のような情報を寄せていただき、教材研究を進める上で参考になった。

  1.  4万分の1空中写真で見ても、沖庭山の東斜面にはとくに大規模な地すべり地が分布している。グリーンタフと花崗岩の分布の境界がこの辺で南北になっていることを反映しているように思われる。
  2.  2万5千分の1地形図を見ると、沖庭山の山頂部は極めて特徴的な形状をしている事が分かる。侵食によって小起伏にされた面が、地すべりや崩壊によって周囲から削り取られてゆく過程で、小起伏面上に形成された線状凹地だと考えて良いと思う。小起伏面が側方の支えを侵食で失うことにより、山体が側方に膨らんで稜線部が陥没したり、地すべり地の頭部などで張力が卓越したりすると、このような地形ができる。
  3.  東大出版「日本の活断層」によると。小国駅東1kmのあたりをNW-SEに走る北東落ちの断層が、丘陵高度の不連続から確実度IIの活断層と認定されている。小国町市野沢の396mピークの西にNNW-SSEに一直線にのびる谷、小国町栃倉・越中里・中島の西約3kmにある、樋ノ沢川上流〜東俣沢上流を結ぶ線状の谷線がリニアメントして載っている。
  4.  小国町史の記述から判断する限り、断層の存在そのものは確かめられているようだが、沖庭台地と小国盆地の津川層(これは第三紀中新統)の高度差は,断層運動(プラス多分褶曲)で生じたというのも良さそうに読める。

4 終わりに

 地域の自然について調べた内容を広く公開することが、逆に学習の発展に有用な情報を得ることにつながることを実感している。地域の植物調べや天体観測においても同様の展開があった。これらについても本校ホームページで紹介しているのでご覧いただければうれしい。まさに「情報は発信するところに集まる」のである。今後も各分野において、生徒と共に学習成果の発信・共有・蓄積を続けていきたいと考えている。

 こうして振り返ってみると、本校のような小規模校におけるインターネット活用の有効性として、次の4点にまとめることができそうだ。

  1.  本校のような少人数の学校でも、人とのかかわりを拡張・加速できる。
  2.  他地域の人々との交流を通して、自分の住む地域の特徴をつかむことができる。
  3.  学習成果を紹介し、それに対する感想や意見を得ることで、自分の考え方やものの見方をより深めることができる。また、そのためには、教師が予め指導計画を提示するなどして、協力してくださる方々や学校の指導者に、学習のめあてについて理解を得ておくことが大切である。
  4.  学習成果を色あせないデジタル情報として保存し、ネットワーク上に公開しておくことは、他校の児童生徒と情報を共有するばかりでなく、自校の後輩に引き継がれ生かされるという面でも、意味あることである。

 本校ホームページにアクセスし、ご助言下さいますようお願いいたします。



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