地域の豊かな自然を生かした授業の推進

平成11年3月 西置賜学校教育広報63号掲載

小国町立白沼中学校 教諭 今 琢生


1.地域の自然の教材化と表現活動
 「平成10年度学校教育指導の重点」を受け、中学理科の学習において、地域の自然を教材とした調査活動を積極的に取り入れ、自ら学ぶ力を育成したいと考えた。さらに、そこで得た新しい発見や感動を表現活動につなげ、本校の学校研究のテーマでもある、豊かな表現力の育成をねらう授業を推進した。

2.重点的な実践課題
1. 地域の季節に合わせて地域教材を活用することに配慮した年間指導計画を作成し、調査・体験活動を充実させる。
2. 過去の調査記録を手本にして生徒が自分で調査計画を立てたり、自分達の調査活動から得た事項を基に、生徒が自分で考えながら課題を解決していく場の設定を工夫する。
3. 調査活動から得た成果を表現活動につなげ、一人ひとりの表現のよさを学び合えるように工夫する。さらに、次年度以降の学習活動に活かせるように、手法を工夫しながら学習成果を蓄積していく。
 以上の課題を実践する中で、生徒達が地域の特性を理解し、地域を愛する気持ちを自ら育んでいけるようにしたいと考えた。

3.具体的な実践例「地域の地層調べ」
 中学三年の「地層」の単元では、地域の地層を観察して周り、採集した岩石や化石などを持ち帰って学習に活かした。生徒自らが雄大な自然の中で活動し、地域の大地が変動してきた歴史を探求しながら、生徒の興味や疑問をより大きなものにしていくことをねらった。
「地層」指導計画
1.学校近くの工事現場の露頭を観察し、地層の特徴を調べる。卒業生の観察記録を参考に学習の計画を立てる。
2.地層の示す特徴からその成因について推論する。流水実験やビデオ資料から地層の成因を確かめる。
3.4.国道沿いの露頭を観察・記録し岩石を採集する。
5.いろいろな堆積岩のつくりと構成物質の違いを調べ岩石を分類する。
6.示相化石。示準化石について調べ、沖庭山で発見された植物化石を観察し当時の自然環境を類推する。
7.8.宇津峠の砂岩層を観察・記録する。化石や岩石を採集する。
9.これまでの地層観察の記録を手がかりに、この地域の大地の歴史について話し合う。
10.調査の報告書を作成し白沼小中学校ホームページへ載せる。
 9時間目では、地層観察の記録や採集した化石を手がかりにして各露頭の地層が形成された環境を推論した。さらにこれらを海成か陸成かという視点で年代順に一覧表に総合し、これを基に地域の大地の変動の歴史について話し合った。「大昔は海の中だったのが、上がって陸地になって下がって海に沈んで、また上がって陸地になっている。」「大地が上下しているのではなくて、海の水が上がったり下がったりしているのだと思う。」など、生徒達は自分なりの推論を出し合い、白沼地域の大地は隆起と沈降を繰り返していることに驚きを持ちながらまとめていった。
 10時間目では、調査報告書の骨組みを立て分担し、調査記録の写真を選んで説明文を付け互いの文章表現を評価し合ったり、より分かりやすいものにするために化石の写真を撮り直して付け加えたりした。報告書は白沼小中学校のホームページ上へ公開した。

4.成果と課題
 中学三年「地層」の実践において、前述の重点課題について次のような成果を得ることができた。
1.木の葉が落ちた時期に本単元を位置づけたことで、地層の観察や貝化石の採集を容易で安全に体験させることができた。こうした直接的な体験は多くの発見や感動を産み、生徒達の探求意欲の高まりにつなが
った。
2.二年前の中学三年生の観察記録を導入に用いたことで、生徒の実践的意欲を高めることができた。また、野外調査で得た複数のデータを比較する視点を明確にして一覧表に整理したことで、生徒一人ひとりが地域の大地の変動の歴史について自分なりの推論を持つことができた。調査報告書の表現技法についても、よりわかりやすく相手に伝えようとする工夫を導き出すことができた。
3.調査報告をホームページにまとめ公開したことで、次のような第三者の評価を得ることができた。こうしたメッセージは生徒の自信と意欲を高めてくれた。
「(略)三年生の地層の学習を拝見しました。とても詳しく調べていますね。写真も鮮明で、きれいでわかりやすいです。説明の文章も、簡潔で立派だと思いました。(略)先輩の研究に付け加えていくうちに、地域の地層の全体像が見えてくると嬉しいですね。」
 次の事項を今後の課題としてとらえている。
1.地域の地質的特徴についてはいくつかの文献を頼りに教材研究を行ったが、地域教材を活かした野外観察指導をより充実したものにするためには、岩石の組成の同定などについて指導者が自分の目で判断する力を高めることが必要である。いろいろな研修の機会を活かしていきたい。
2.地域教材を活用した生徒主役の探求活動を進めながら、その成果を次年度以降の学習に利用しやすい保存蓄積の方法を工夫していきたい。「地域の地層調べ」では報告書を色あせないデジタル情報としてホームページへ掲載する形で保存蓄積しているが、この手法には「調査しまとめる」→「発信する=蓄積する」→「応答を持ち深める」→「後輩が利用する」という形を比較的容易に作ることができるという利点がある。環境整備の面で課題もあるが、小規模校での探求活動を継続的に推進するためには、こうした形を創り上げ定着させていくことが効果的であると考える。



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