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ディエンファシス回路の追加

last up date:2005/12/03

1.はじめに

 秋月電子の液晶TVキットを製作し、車に積んで使用していたが、
キンキンと高い周波数(高域)の音が妙に強調されている事に気が付いた。
 最初はスピーカが小さいからだろうと考えていたが、その後いろいろ
考えた結果、チューナ出力に「ディエンファシス回路」が付加されて
いないのでは?という結論に達した。
 そこで、高域が強調された音を正常にする為、ディエンファシス
回路を付加する事にした。


2.「エンファシス」について

 FM変復調の過程において、高い周波数でのノイズレベルが
高くなる性質がある。そこて、送信時に高域を強調し、受信時に
高域を減衰する操作を行うことでノイズを低減するように
なっている。
 これをエンファシス処理と言い、送信時の処理をプリエンファシス,
受信時の処理をディエンファシスと言う。

 エンファシス処理を行う周波数特性は放送方式により規格化
されており、日本の放送の場合、FM放送は50μS,テレビの
音声は75μSとなっている。この数字はエンファシス処理を行う
部品(コンデンサ及び抵抗)の値の積により定義されている。
ちなみにこの値を周波数軸に置き換えて表現すると3dB低減(強調)
周波数は、FM放送が約3180Hz,テレビが約2120Hzとなり、
これ以上の周波数でのレベルの変化は、オクターブ(周波数が2倍)
あたり約6dBの一次直線となっている。
(図の右下のグラフ参照。)

 送信機のプリエンファシス回路は基本的にFM復調前に付加されるが、
特にステレオや音声多重を行う場合は音声多重処理前に付加される。
 また受信機のディエンファシス回路はFM復調後に付加されるが、
ステレオまたは音声多重復調処理がある場合はステレオ復調または
多重復調回路後に付加される。


3.チューナユニット内にディエンファシス回路が無い理由

 チューナ後段には音声多重復調回路が付加される事が想定される。
 もしチューナ内にディエンファシス回路が付加されていると、
多重復調処理に必要な高い周波数の成分が減衰してしまい、多重復調
処理が出来なくなる。
 従って音声多重対応のチューナは、多重復調処理後にディエンファシスを
行う。

 つまりチューナ出力にはFM復調された出力(MPX出力と言われる
音声多重信号を含んだ高い周波数成分を含む信号)がそのまま出力
されており、チューナ内にはディエンファシス回路は入っていないと
考えるのが妥当である。


4.ディエンファシス回路について

 ディエンファシス回路は、基本的には図 上側に示すようなRCによる
一次LPF(ローパスフィルタ)である。
 部品の定数の算出は、基本的にはt=CRの式により求めるが、
先に述べたように日本のTVの場合t=75μSになるようにする。
ただしRは回路のインピーダンスを左右することになり、小さ過ぎても
大き過ぎても信号レベルの低下を招くことが考えられ、注意が必要で
ある。

 なお算出にあたり、厳密にはチューナの出力インピーダンスを
考慮する必要がある。しかしここでは簡易的に無視して計算している。
ただRを大きめに取ることでチューナの出力インピーダンスによる
影響を受けにくいように配慮し、仮にRenf=3.3kΩ,Cenf=0.022μF
とすることにした。

 なおCRの誤差は高域の周波数特性に影響を与える。
 計算上、1μSの誤差が約0.1dBの差となって現れ、CRの積が大きいと
高域のレベルが低下し、積が小さいと高域のレベルが増加する。
 本来は周波数特性がフラットになるようにすべきところであるが、
好みにより若干調整しても良い。(実際、FMラジオ用ICのデータシートに
掲載されている参考回路では、50μSとすべきところを40μS程度にしてある
例が結構見受けられる。)


5.ディエンファシス回路の付加

 回路の付加と言っても大げさなものではなく、チューナの出力と
出力コネクタの間に先に示した図のように、抵抗とコンデンサを各1個
付加するだけである。


6.結果

 高域が強調されたキンキンという感じの音が無くなり、
普通のTVで聞く音と何ら変わらない正しい音が出力されるように
なった。


7.その他

7−1.疑問

 TVの音声が受信できるように受信周波数が76〜108MHzになっている
FMラジオがある。
 この場合、ディエンファシスの定数は幾らに設定されているのだろうか?
(TVは「おまけ」なので、FMに合わせてある?)

7−2.アメリカ仕様FMラジオ

 アメリカのFM放送は、ステレオ変調の方式は日本と同じであるが、
ディエンファシスの定数は日本とは違い75μSである。
 周波数を調整して日本国内で使用する場合、定数の違いで、逆に高域が
不足する。(計算では10kHzにて-3.3dB)
 ステレオ復調回路の後にディエンファシス回路が付いているはず
なので、その定数を変更すれば違和感ない音になるはず。

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