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アンプ付き分配器
このページでは、アンテナから受信した電波を複数の受信機に分配する
アンプ付き分配器について説明します。
目次
1.はじめに
2.雑音指数について
3.分配ロスの対策
4.システム構成
5.部品の実装方法
6.さいごに
1.はじめに
複数の受信機で同時受信したい場合、受信機個々に外部ANTを設ける
のはいろいろ大変である。
そこで1本のアンテナの出力を分配する方法が思いつく。
しかし単純に信号を2分配する事は、エネルギーが半分になる事を意味し、
感度が低下してしまう。
(信号を2つに分けることは単純計算で3dBのロスが発生する。
実際には分配器によるロスが入るため、ロスは更に増大する。)
そこで、感度低下を防ぐ方法として、分配前に増幅器を入れる手法を取った
ので紹介する。
2.雑音指数について
受信システムの感度を表わす指標として、雑音指数(NoiseFigure,
略してNF)がある。
雑音指数は、アンプ等の機器に信号を入力した場合、S/N比が
どの位劣化するかを表す指標であり、入力する信号のS/N比と出力の
S/N比の比率で表される。
値が小さいほど感度が良い事を示し、最良値は1(dB表記の場合は
0dB)である。
受信システムの感度は雑音指数で決まるといわれ、重要な
ファクタである。
参考)
アンプ+受信機や、ケーブル(ロス)+受信機のように複数の
機器が組み合わされたシステム全体でのNFは下式で求める事が
出来る。(下式は2段の場合であり、3段以上の場合は前段に
さかのぼりながら計算を繰り返せば良い。)
NF2−1
NF=NF1+−−−−−−−
GAIN1
NF:システム全体のNF
NF1:前段の機器のNF
NF2:後段の機器のNF
GAIN1:前段の機器の利得
(すべて真数で計算,(dB表記の場合は真数に変換後算出必要))
注)利得は1より大きい値(dB表記なら正の値),ロスは小数値
(dB表記なら負)になる。
ロスはわかりにくいが、例えば3dBのアッテネータは
利得が-3dB(すなわち「2」),NFが3dB(すなわち「0.5」)である。
3.分配ロスの対策
雑音指数は、前項の式で示されるように、前段にロスがあればその分が
増加(悪化)すると考えてよい。
従ってアンテナからの信号を分配すれば、その分雑音指数が悪化する
事を示す。
そこで分配ロスが発生する前にアンプを設け、増幅後に分配する方法を
取ることで、システム全体の雑音指数は前段のアンプの特性でほぼ決まり、
分配ロスによる影響を受けにくくする事が出来る。
4.システム構成
図1上側に本システムのブロック図を示す。
4−1.増幅段
増幅段はμPC1651C(NEC)という高周波アンプICを使用した
広帯域アンプである。
このICはNFが5dB程度あり、決して特性的には良好とはいえないものの
入手が容易で扱いやすい事から使用した。(手持ちの都合もあったが。)
実は本システムは今から10年程前に製作したもので、上記ICは現在は製造が
中止されている。
入手は可能と思われるが、同社より後継のICが製造されている他、他社からも
同種の高周波用ICが発売されている事から、入手し易いICから特性が良好なもの
(特性が最適なもの)を選択・使用すれば良い。
なお、強電界入力によりアンプICが破損する可能性がないとは言えない。
特性に影響があるが、保護回路として、ダイオードを逆方向に2本並列に接続
したものを入力−GND間に接続している。(図には記載していない。)
また、アンプICの電源が5Vであるので、三端子レギュレータICを取付け、
受信機の電源をそのまま利用できるようにしている。
実は同軸ケーブルによるロスを考慮すると、アンテナ直下にアンプを設置する
事が理想であるが、防水や電源供給等の面で屋内設置としている。
4−2.分配器(SPLITTER)
分配器は周波数特性が良好な抵抗分配器とした。
この回路は高周波測定に使用される「パワースプリッタ」(もしくは
「パワーデバイダ」)といわれる回路そのもので、部品を選び実装方法を
工夫すれば、10GHz以上の周波数帯域を得ることができる。
出来ればチップ抵抗の使用を薦める。手持ちの都合で今回は、
リード付きの抵抗を使用しているため、1GHzまでは伸びていないと
思う。
なおこの回路は原理上6dBのロス(分配ロス3dBと抵抗によるロスが
3dBで、計6dB)があるので、TV用の同軸型の分配器を転用したほうが
ロスが抑えられると思う。(TV用のインピーダンスが75Ωであるが、
50ΩとのミスマッチはVSWRで1.5であり、受信システムとしては
大きな損失にはならない。)
5.部品の実装方法
図2に基板のパターン図,図3に基板の実装図を示す。
システムの構成より1GHz近い周波数まで扱う事から、部品の実装には
高周波を意識した実装が必要である。
実際には以上の回路を高周波の伝送に適した「マイクロ・ストリップ・
ライン」を意識し、両面基板に実装する事で対応している。
マイクロストリップ基板でのパターンのインピーダンスは基板の誘電率,
厚さ,パターン幅で決まる。
詳しい計算式は省略するが、1.6mm厚のガラスエポキシ基板(誘電率:
約4.8)を使用しているので、50Ωのパターン幅はおおよそ2.7mm
であり、高周波が通るラインはこの幅を基本とする。
部品は極力基板より浮かさないで実装する必要がある。
基板から浮くとその分部品のリードが長くなるが、そのリードがLの成分を
持ち、特性に影響を与えてしまう為である。
また基板表側のGNDラインは基板裏側のパターンとの「スルーホール」
(実際にはリード線で接続)を多く設ける。
アンプICのバイパスコンデンサ(電源−GND間のコンデンサ)はICと
最短で接続する。長くなるとICが発振する場合があり、下手すると
スプリアスをアンテナからバラ巻くというケースも考えられるので注意。
同軸ケーブルとの接続部も要注意である。
オーディオのシールド線の端末処置のような方法(芯線とシールドを
分けて接続)では、高周波での特性に悪影響を及ぼす。
そこで図に示すような同軸の状態を崩さないような接続が良好である。
なお図5のようにコネクタを直接取り付ける方法が、最も損失を抑える
ことができる。
6.さいごに
本システムは、別項の「列車無線自動録音システム」において、基地局と
移動局(列車側)の2波を同時に受信する必要があった事から製作したものである。
当時の手持ちの受信機の関係で、移動局側の受信に八重洲のFRG-965という
受信感度面で不利な受信機を使用しているが、私が在住するエリア内での通話は
なんとか受信出来ている。(別項の感度向上の改造を施しているのも一理あるが。)
また近所での落雷があったが保護回路が効いているのか、10年以上壊れる事も
なく、安定して使用している。
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2004/05/19新規作成