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長波JJY受信機の製作

 last up date:2005/11/12


===== 目次 =====

0.バグ情報
1.はじめに
2.長波JJYの仕様
3.受信機の基本構成
4.製作した受信機の回路構成
5.調整方法
6.課題
7.さいごに
8.関連情報
9.参考文献


0.バグ情報

0−1.予定していた利得が得られていなかった

 2005/11/02追加(2005/11/12文面見直し)
 計算ミス及び考え無しに手持ち部品を使用した関係で、周波数帯域の
制限がかかり、予定していた利得が得られていない事が判明しました。
 下記2点を改善?する事で、利得が向上し、検波出力を増加する事が
出来ました。

1)帯域制限用C容量の選定ミス
 高周波増幅の初段のアンプですが、当初100kΩの帰還抵抗に100pFを
並列に接続していました。しかしこれでは3dB減衰ポイントが16kHz付近
となる為、40kHzでは約8.6dB,60kHzでは約11.8dB利得が落ちてしまう
事になります。

 並列に接続するコンデンサを10pFに変更すると3dB減衰ポイントが
約160kHzとなり、60kHzにおいても抵抗比による計算により算出した
利得がほぼ得られるはずです。
 なお帰還容量を減らした事で、位相補正量が減り、発振し易くなる
ので注意が必要です。

2)オペアンプの帯域不足
 RFAMPとして当初手持ちの4558を使用して1段辺り40dB増幅する
つもりでしたが、その後データシートの利得帯域幅GBに基づき
Av-f特性を算出したところ、40kHzでは37.5dB,60kHzでは34dB
程度の利得しか得られない事が判明しました。
(GB=3MHzとして計算・・・但し同じ「4558」でもメーカーにより
GB=2〜3MHzと差があるようです。)

 逆算した結果、60kHzで40dBを確保するには最低でもGB=6MHz必要
という結果が得られた事から、データシートを見ながら手持ちの
チップの中から適当がないか選定し、NJM4580(GB=15MHz)に交換
しました。(LM833でも良さそう)

 このチップは特性的にまだ余裕があるので、帰還抵抗を大きく
する事で、さらに利得を稼ぐ事が出来るようです。
 実際に2段目の帰還抵抗は100kΩの上として330kΩを選択できる
ようスイッチ部に追加してあり、計算では50dB(40kHzにて)近い
利得が得られると思われます。(ただしOPAMPの利得帯域幅上限
付近である為、60kHzでは2dB程低下する事になるようです。)

 実際にはOPAMP自体の特性ばらつきもあるので、本気で利得を
稼ぎたいのであれば1段追加したほうが確実かと思います。
 1段追加し、1段辺りの利得を30dBで3段増幅する構成であれば
4558でも帯域制限にかろうじて引っ掛からないと思われます。

 なお、TL072,082などのJ-FET入力タイプに交換したところ、
発振するようでNGでした。
 データシート等を調べたところ、J-FET入力タイプはパイポーラ
タイプと比べ入力容量が大きい為に発振しやすいとの事。
 発振を止めるには帰還容量を大きくする事になるが、その
方法では容量による帯域制限で利得まで低下するので本意では
ありません。
 もっと良い「位相補正」の技があるものと思われるのですが、
技術・経験不足の為、J-FETタイプの使用は断念、パイポーラの
NJM4580を使用しています。


1.はじめに

 標準電波として知られていた短波のJJYが2001年3月で
閉局となりました。その代わりとして以前JG2ASという
実験局扱いで送信されていた長波での標準電波が、長波の
JJYという形に格上げされ、新しい送信所から強い電波で
送信されるようになりました。またそれに対応した電波時計
が市販されるようになっています。

 この電波、どのような「音」で送信しているのか興味がありました
が、残念なことにこの周波数が受信し「音」として聞くことができる
受信機は一般には市販されていないようです。

 そこで長波JJYを受信する受信機を製作し、受信に成功
しましたので紹介します。

 なお、本稿では以前の短波のJJYと区別する為に「長波JJY」
と記述しています。


2.長波JJYの仕様

 長波JJYは、長波による標準電波で、周波数の標準を提供すると
共に、日本時間をデータとして送信しているものです。

 下記に概要を説明しますが、詳細については、独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)
日本標準時グループのホームページを参照下さい。
情報通信研究機構(NICT) 日本標準時グループ

2−1.送信所の位置

 日本には下記の2箇所の標準電波送信所があります。
 ・福島局(おおたかどや山標準電波送信所)
 ・九州局(はがね山標準電波送信所)

2−2.電波の周波数および電波形式

 標準電波の送信周波数は下記のようになっています。
 ・福島局:40kHz
 ・九州局:60kHz

 いずれも秒信号により搬送波が振幅変調されています。
 (電波形式は「A1B」)

2−3.時刻情報の送信方法

 秒信号は3種類の長さの信号があり、時間をコード化した
「タイムコード」により長さが変わり、コンピュータでの
自動受信に対応するようになっています。
 (信号の長さと機能については下表を参照。)

 3種類の信号の内訳

  信号名    長さ     機能
 ポジション信号 0.2秒 タイムコードの開始位置を示す
 "1"信号     0.5秒 タイムコードの"1"を示す
 "0"信号     0.8秒 タイムコードの"0"を示す


 短波で送信されていたJJYとは違い、このようなコード化された信号が送信
されている関係で、耳で聞いて時刻の判別する事が出来ないのが残念です。


3.受信機の基本構成

 長波JJYを受信する受信機の基本回路を図1に示します。

1)アンテナ
 40kHzまたは60kHzという非常に低い周波数である為、ループアンテナが
適していると思われます。

2)受信回路
 まずは受信した信号を、復調処理し易いレベルまで増幅します。

 次に受信した信号を「音」にします。
 秒信号により40kHz(60kHz)の搬送波を直接振幅変調するA1B方式
である為、CW(電信)の復調と同様、平衡変調器に副搬送波を注入して
ビートを発生させて低周波に変換します。
(元の電波が可聴外周波数なので、副搬送波とのビートを発生させることで
耳に聞こえる「音」にしています。)

 最後に低周波に変換された信号をスピーカ等が鳴らせるように電力増幅します。


4.製作した受信機の回路構成

 製作した受信機の回路を図2(RFAMP〜復調段)および図3(AFAMP部)に示します。

1)アンテナ(図4参照)
 電線を保護するプロテクタ(モール)を利用し外周約1mの三角形の枠をつくり、
その中に約20m分のエナメル線を巻いたものとしています。
(20mという数字に根拠はありません。10mでも十分かも知れませんし、
30mのほうが良いかも知れません。今後の追加実験ポイントです。)

 後述の文献では専用のバーアンテナを使用しているようですが、
一般では入手が難しいのと、現在の回路ではアンプの利得が
不足するかも知れません。
(その後、30mmφ程度のループアンテナ及びボルトを鉄心にしたバーアンテナ
タイプも製作・・・いずれも20m巻いてます・・・し実験したところ、30mmφの
ループアンテナで受信可能な事を確認し、このタイプを回路と一緒にケースに
収納しました。)

 本来であれば、同調型にしたほうが感度か望めますが、現時点では
そこまではしていません。(これも追加実験が必要なポイントです。)

2)高周波増幅
 40kHz(60kHz)の信号を増幅する回路は、オペアンプを2回路使用し
80dB程増幅しています。
 オペアンプに4558を使用しましたので1段当たり40dBとしていますが、
1段当りの利得を欲張ると帯域制限で引っ掛かるかも知れません。
・・・40dBでも帯域制限にしっかり引っかかってました!ので、
  その後、NJM4580に交換しています。(「バグ情報」の項参照)

 特に帯域制限は行なっていない為、外来に強いノイズがあると負けて
しまうかも知れません。その場合は同調回路を入れるか、増幅段で
フィルタを構成して帯域を制限したほうが良いと思います。
(文献では水晶フィルタを入れているようですが・・・)
 なお発振防止のため、初段のアンプの帰還抵抗と並列にコンデンサを
接続しています。

3)復調回路
 復調回路は、オペアンプとアナログスイッチを組み合わせた
平衡変調回路です。トランジスタ技術誌で見かけた回路で、汎用のIC
(オペアンプはオーディオ用で良く使われる4558,アナログスイッチは
C-MOSの4066)で作れる事から良く使用しています。
 原理的にはトランスとリングダイオードを使用したDBM(二重平衡変調器)と
同じ動作になります。
(高周波信号を直接低周波に変換しますので、いわゆるダイレクト
コンバージョン方式であり、正真正銘の「プロダクト検波」方式です。)

4)副搬送波発振回路
 副搬送波を発振する回路もオペアンプによるもので、ヒステリシスアンプと
C−Rによる遅延回路を組み合わせた一般的な回路です。
 出力波形が方形波に近く、周波数を変えてもデューティ比(ON/OFF比)の変化が
少ない事、出力振幅が平衡変調回路で使用しているC-MOSのアナログスイッチを
直接駆動するのに適当である等の理由からこの回路を使用しています。
 オペアンプはLM833を使用していますが、4558でも問題ないと思います。

 ただ周波数の安定度が要求されるのと、周波数の微調整が必要なので、
コンデンサはマイラフィルム型,抵抗は10回転ポテンショ型の半固定抵抗を
使用しています。

5)ローパスフィルタ
 私は省略しました(回路図にも特に入れていません)が、ノイズが大きい場所で
あれば数kHz程度のカットオフ周波数のフィルタを入れたほうが良いでしょう。

6)低周波電力増幅
 低周波電力増幅段はヘッドホンドライブに適したオペアンプを使用した回路と
しています。(利得は約10dB)
 この回路はあるメーカーのカセットデッキ内の回路を読み取ったものですが、
割合簡単なのと、オペアンプを使用している為に他の回路と電源系が統一
できるのでこの回路としています。

 ただスピーカを鳴らすには出力が足りないと思いますので通常の低周波電力
増幅ICを使用したほうが良いかと思います。
 ただしこの手のICは利得が結構大きいので、復調出力を抵抗などで減衰させて
から電力増幅ICに入力する必要がありそうです。

7)電源
 オペアンプは通常正負電源で動作させますが、バイアス回路を工夫する事で
単電源動作としており、以上の回路を006p9V電池1本で動作させています。


 以上の回路を47mm×72mm(サンハヤトのICB288相当)の基板1枚に
全て実装しましたが、製作に慣れていない方はもっと大きい基板を使用した
ほうが良いでしょう。
 基板内の部品配置は図5のようにしています。
(一部回路図にない部品があります・・・増幅段の増幅率決定用帰還抵抗の
330k等)

 この基板をタカチ電機のSW-120というケース(W60mm×H24mm×D120mm)に
直径30mmのコイルを潰して!一緒に収納しました。
 ケース内の部品配置は図6のようにしています。

 組立てた受信機の内部は下記写真のようになりました。


5.調整方法

 最初はなるべくノイズが少ない場所が適しています。なるべく電気機器
や通電された電線,電話回線などから離れたほうが良いです。
 またアンテナも大きいもののほうが良いでしょう。

 高周波増幅の2段目のスイッチは最大ゲイン(帰還抵抗が100kΩ)に切替えます。
 副搬送波の発振周波数を39kHzか41kHz(九州局を受信する場合は、
59kHzか61kHz)に合わせます。・・・周波数カウンタで発振回路の出力周波数を
測定し合わせます。
 回路がうまく動作していれば長短を組み合わせた独特な変調波が受信
できるはずです。(副搬送波の周波数が上記であれば、1kHzの断続音が
聞こえます。)
 アンテナの位置や向きを最も受信状況の良い方向(ノイズが少なく、
最も明瞭に聞こえる)に合わせます。
 副搬送波の周波数を変えると、受信された音の周波数も変化します。

 ヘッドホン(もしくはスピーカ)から漏れる磁気がアンテナに結合しますと
発振することが考えられますので、なるべく離します。

感覚がわかってきましたら小型のアンテナに変えて挑戦します。


 以下に実際に受信した音を紹介します。
 (年月日時分頃受信。なお安定した受信が可能なよう、搬送波発振部に
PLL回路を使用した受信機での受信音です。)

(受信音、準備中)


6.課題

 2005年11月12日追加
 とりあえずこの状態で受信できていますが、これで最適化
されているわけではありません。
 追加実験すべきポイントが多く残っていますし、この他にも
いろいろあるかも知れません。

6−1.アンテナ

 別項で紹介している「磁気ノイズを拾う」為に製作したコイルを
そのまま流用している関係で、長波JJY受信用に最適化しているわけ
ではありません。
 本文中にも書きましたが、同調型のほうが感度が稼げるはずですし、
現在の巻き数も、変えたほうが良いのかも知れません。

 共振型にする場合は次段への結合方法も課題になると思います。
 並列共振回路の場合、同調時のインピーダンスが高くなりますので
2次巻線を追加してインピーダンス変換してからAMPに入力するのが
良さそうですし、AMPを次項のI-V変換とする場合は共振回路に
直列にAMPを接続するのが良さそうです。

6−2.AMPの入力回路

 1段目は電圧増幅の回路にしていますが、入力抵抗を無くして
I-V変換回路としても良いのかも知れません。

6−3.フィルタ

 ノイズを減らす為にAMP段間にフィルタを入れたほうが
良いと思います。
 文献を見ると水晶フィルタが使用されているようですが、
OPAMPによるアクティブフィルタでも良いと思います。


7.さいごに

 実はこの回路、とある多重無線の復調用として手がけ始めた回路がベースに
なっています。
 また過去には、ループアンテナを作って、「ホイスラー」や「VLFエミション」
などといった磁気ノイズを受信して遊んでいたことがあります。
 ふと長波JJYが受信出来ないかと、2つの仕掛けを接続してみたところ、
受信に成功してしまったので、専用受信機として1枚のボードにまとめて製作する事に
しました。

 さて筆者が受信実験している場所は山形県南部であり、比較的送信所に近い事が
受信に成功している一因かも知れません。距離が離れるとうまく受信できるのかは
何ともいえません。(実際60kHzの九州局は受信出来ていません。ただしアンテナ次第
なのかも知れません。)


8.関連情報

磁気ノイズを聞く


9.参考文献

1)独立行政法人 情報通信研究機構(NICT) 日本標準時グループのホームページ
情報通信研究機構(NICT) 日本標準時グループ

2)トランジスタ技術 (CQ出版)
 1996年12月号p350
 平衡変調回路を参考にした。

 以下は、製作後に知りました。
3)ハムジャーナル(CQ出版)

4)電波時計用受信IC LA1650Cデータシート(SANYO)


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2005/11/20更新(関連情報追加,文面一部見直し)
2005/11/12更新(「バグ情報」文面修正,図差し替え,ケース内レイアウト及び写真,「課題」追加)
2005/11/02更新(「バグ情報」追加)
2005/09/04新規作成