Coltraneを知るCD10枚
若いセッション仲間との会話から、ジャズ仲間にジョン・コルトレーンを知ってもらうための10枚を選定してみることにしました。トレーン縁の曲はセッション等でも頻繁に演奏されてまして、一通りトレーンを聴くことはジャズプレーヤーとして必要なことの一つでしょう。自己のスタイルを探求しながら突き進むトレーンの世界を楽しみましょう。各年代の代表的録音と思えるものをリストアップしてみました。トレーンの全てを聴いているわけではありませんし、はたしてうまく10枚に絞り込めるかわかりませんが、少しずつ解説文なども付けてみたいと思います。(2007.10.24)
'Round About Midnight (Miles Davis) 1955〜1956年
ロリンズ雲隠れ中のため代わりにマイルスバンドに抜擢されたトレーン、2曲目のAh-Leu-Chaがマイルスと最初の録音のようです。マイルスに続く2コーラスのソロ、実に端正に組み立てられています。Dear Old Stockholmのソロ中でWhile My Lady Sleepsのメロディーを引用していまして、この後、代表的な引用ネタとしてテナー界に定着し現在に至ります。よくトレーンを無骨な硬い音色という人がいますが、しっかり聴くと温かな音色であることに気づくはずです。収録曲は'Round About Midnight All of You Bye Bye Blackbirdなど、50年代中期のトレーンを楽しめます。
同メンバーでのプレスティッジ マラソンセッション4枚はセッション曲の源泉です。Relaxin(If I Were A Bell Oleo It Could Happen to You 他) Workin'(It Never Entered My Mind Four In Your Own Sweet Way Trane's Blues Half Nelson 他) Cookin'(My Funny Valentine Airegin Tune Up 他) Steamin'(Sault Peanuts Well You Needn't 他) (2007.10.24)Coltrane Prestige 7105 1957年
初々しい感じのジャケ写真、2枚目は30歳トレーンの初リーダー作品です。マットデニスの名曲 Violets for Your Furs は、この頃のトレーンのバラードでの歌い方を深く味わえる名演です。Balladsなどインパルス時代の歌い方と比較して聴くのも面白いでしょう。コンディミの使い方のお手本にもしています。引用メロディーとして流行らせた While My Lady Sleeps 、ここでは一つの曲として演奏しています。同日(5月31日)に録音された I Hear a RhapsodyはなぜかLush Lifeに収録されていますが、このアルバムの一部と思って愛聴しています。人気盤 Blue Train(Blue Train Moment's Notice 他) Soultrane(Good Bait I Want Talk About You Theme for Ernie 他) も同路線のアルバムと言えるかなと思います。(2007.10.25)
At Carnegie Hall (The Thelonious Monk Quartet) 1957年
50年代後期、57〜59年あたりは録音が多くて多彩なジャズメンとの共演を聞き比べることができます。その中でも、モンクとトレーンの深い関係はジャズ雑誌等でよく語られるネタであり、そのライブの素晴しさは伝説となっていました。近年、ラジオ放送のために録音されたテープが発見され、2005年にCDとして世に出されました。演奏内容の凄まじさでは、妻のナイーマが録音していたという翌58年のライブ Live at the Five Spot Discovery (The Thelonious Monk Quartet) (In Walked Bud I Mean You Epistrophy 他)の方が上ですが、録音状態を考えてこちらを選びました。ギター好きな方はKenny Burrel & John Coltrane(Freight Trane Why Was I Born 他)、ビブラフォンならBags & Trane(Three Little Words 他)と共演楽器で聴いたり、マイルス、ビルエバンスとの1958Miles(On Green Dolphin Street Stella by Starlight Love for Sale 他)やKind of Blue(So What All Blues 他)、タッドダメロンとのMating Call(Soultrane 他)、キャノンボールアダレイとのCannonball Adderley Quintet in Chicago (Cannonball Adderley)(Stars Fell on Alabama Wabash You're a Weaver of Dreams 他)など、好きなジャズマンとの共演を選ぶのも良いでしょう。いずれも大好きな作品です。1枚選んだふりして8枚も紹介してしまいました。(2007.10.27)
Giant Steps 1959年
マイルスから離れ、溢れるアイディアを試すかのような意欲作をリリースし続けたアトランティック時代です。コルトレーンを知るという意味では、コルトレーンチェンジで衝撃を与え、名バラッドNaimaでうっとりさせる、初の全曲オリジナル作品Giant Stepsと、タイトル曲で人気を得たMy Favorite Thingsの2枚ということになるでしょうか。一応教科書通りに選んでおきましょう。さて、タイトル曲Giant Stepsですがコルトレーンチェンジにはちゃんと取組んだことがないので解ったような事は書けません。その疾走感が素晴しい演奏ですが、正直いうとアルペジオ練習用のエチュードみたいに感じて辛くなることもあります。いつかコルトレーンチェンジに取り組んでみようと思いながらウン十年が経過(苦笑)、Countdownとかもやたら速くて難しくて、ちょっと近寄りがたい世界だなーと・・・。この次の作品、歌心溢れるMy Shining HourやLike Sonny Some Other Bluesなどを収録しているColtrane Jazzの方がリラックスした雰囲気で楽しく聴けるかもしれません。(2007.11.8)
My Favorite Things 1960年
My Favorite Thingsは高校2年生のときにFM(NHK軽音楽をあなたに)で聴いたのが初めてでした。YMOからインストに入ってボブジェームス等のフュージョンに目覚めた頃、たまたま耳にしたこの曲に妙に引き付けられたことを覚えています。ペダルトーン上でモーダルに響くソプラノサックスの浮遊感に引き付けられたのでしょう。聴く者の感性に強く訴えるところが広く人気を呼んだのだと思います。深い絆で結ばれるマッコイ、エルビンが参加しての初レコーディングであったと思いますし、スタンダード集みたいに見えてまったく違う雰囲気なのが特徴的です。アトランティック時代の他の作品でもスタンダードチューンが多く録音されていますが、コルトレーンチェンジを組み込んだり、独自のリハーモナイズをしたりと、二ひねり三ひねりもされていて、その辺を聴くのも面白いところです。大成功もあれば、やり過ぎだなーと感じるものもありますがどうでしょう。ひねり過ぎて曲名を変えたりもしてますので、わかる範囲で並べてみようと思います。Countdown(Tune Up)〔Giant Stepsに収録〕 Fifth House(Hot House)〔Coltrane Jazzに収録〕 My Favorite Things Every Time We Say Goodbye Summertime But Not for Me〔My Favorite Thingsに収録〕 The Night Has a Thousand Eyes Liberia(A Night In Tunisia) Body and Soul Satellite(How High The Moon) 26-2(Confirmation)〔Coltrane's Soundに収録〕 トレーン流ブルース集Coltrane Plays The Bluseも味わい深いです。(2007.11.8)
Live at the Village Vanguard 1961年
1961年11月1, 2, 3, 5日の4日間のライブ録音から選りすぐりの3曲が収録されたアルバムです。ソプラノで演奏されるSoftly As In A Morning Sunriseの吹きっぷりに感動して、Chasin' The Traneでこの頃のブルーススタイルを拝みましょう。このアルバムでトレーンの魅力の一つであるスピリチュアルな高揚感にはまると、4日間にわたるライブの全容が知りたくなるでしょう。この4日間の記録であるThe Complete 1961 Village Vanguard Recordings (写真右のBox set)はトレーンファンなら持っていたいセットです。曲目、メンバー、テンポなど、その全様から、ライブが表現の場であるとともに実験の場であったことも伺えますし、よく言われているEric Dolphyからの影響その他についても、そういわれればそうかもと思えたりします。アップテンポなピアノトリオにソプラノで乱入しモーダルに吹きまくるここでのSoftlyの演奏スタイルは、翌1962年11月オーストリアでのライブ盤The Complete Graz Concert Vol1.2のAutumn Leavesでも聴けることを某テナーの館で知りました。iTunes Storeでも入手できるそうです。(2008.11.14)
Ballads 1961〜1962年
トレーンのバラッド演奏にグッと来るそのツボはどこにあるのか、数々のテナー奏者達が研究を重ね、譜面や解説となって世に出ています。 そうした資料を手に入れ、眺めながら聴いたり真似てみたりするのも楽しみの一つです。オリジナルメロディーを大切にした実にシンプルで絶妙な歌い方に感動させられますし、そのニュアンスは後続する著名なテナー奏者のバラッド演奏の随所からも聴き取ることができます。ファラオ・サンダースはその代表選手といえるでしょう。曲目 Say It You Don't Know What Love Is Too Young to Go Steady All or Nothing at All I Wish I Knew What's New? It's Easy to Remember Nancy 同年録音のColtrane(写真右)に収録されているバラッドSoul Eyesも同様の魅力を持つ演奏です。(2008.11.14)
Crecent 1964年
1961年以降はヨーロッパツアーを繰り返し、そのライブ音源が多く出ています。アメリカとヨーロッパを往復する中で上記のColtrane(1962年) Ballads(1962年) Duke Ellinton & John Coltrane(1962年) John Coltrane & Johnny Hartman(1963年)といったアルバムが録音されています。ヨーロッパやアメリカでのライブでは激しい演奏だったようですが、これら一連のスタジオ録音は対照的とも言える内容で、インパルスの売れ筋静寂路線だったという説もあるようです。そうした流れの延長上にあるのがこのCrecent(1964年)かもしれません。しかし、なんと言うか、訴えて来るものが違います。美しく深く緻密で濃い、至高の芸術作品であると言ってしまいましょう。学生時代に初めて聴いたときからずっと大好きで、1枚選べと言われたらこれ、特にタイトル曲は何度聴いて充実感が残ります。ちなみに、全てを聴いているわけではありませんが、この頃の数あるライブ盤から1枚選ぶとすれば、ニューポート・ジャズ・フェスティバルでのライブ、Newport'63(写真右)になるでしょうか。静寂なスタジオ録音盤との対比として聴いてみるのも面白いと思います。(2008.11.16)
A Love Supreme 1964年トレーンの最高傑作と呼ばれる作品、日本版のタイトルは「至上の愛」、この崇高なネーミングに聴く前から身構えてしまうかもしれません。Supremeを英和j辞書で引いてみるとやはりそういう意味の言葉らしく、トレーンの思い入れの程を想像できます。マイナーブルースのPursuanceなど、4パートからなるこの組曲を通して聴いた後「A Love Supreme」と繰り返し呟くようになれば、もう立派なトレーン信者の一人です。ヘッドフォンを付けて一番最後のオーバーダビング二人コルトレーンに身悶えるのもいいでしょう。アシュリー・カーン著、「ジョン・コルトレーン『至上の愛』の真実」を読めば、さらにその世界に浸れます。これからこのCDを購入しようという方にはCD2枚組みデラックス・エディション(写真右)をお勧めします。2枚目に収録されている1965年の仏アンティーブ・ジャズ・フェスにおけるライヴ音源には腰が抜けそうになりました。(2008.11.19)
Transition 1965年素人テナー吹きとしては1960年ぐらいまでのトレーンが比較的参考にし易いこともあり、A Love Supreme以降の作品にはまだ聴いていないものが多いのですが、強力なインパクトを与えてくれるこの作品を本企画の締めくくりに選びました。嵐のようなタイトル曲Transitionには、それまでの激しさとまた一味違う魅力を感じます。スタジオ録音でここまで高音域を駆使した演奏があったでしょうか。このこと一つ挙げてもトレーンの演奏技術がどんどん進化していることがわかります。音の綴りを追っていると、マイケル・ブレッカーはこの頃のトレーンからかなりの影響を受けていたのではないかと思えてきたりします。激しさの後は、トレーンのベスト・バラッドともいえるDear Lord(日本版にのみ収録)でうっとりさせる、この対比もたまりません。3曲目Suite - a) Prayer and Meditation - Day b) Peace and After c) Prayer and Meditation - Evening d) Affirmation e) Prayer and Meditation - 4 AMは20分を超え、A Love Supremeの様な組曲となっています。ここでのトレーンの音色を聴いているとラバーのマウスピースを使っているようにも聞こえるのですが、どうでしょう。(2008.11.19)
読み返してみて、1955年から65年まで、たった10年間の作品群であることに驚いています。その間、凄まじいスピードで進化していたことを再確認しました。こんな風に整理してみることでますますコルトレーンが好きになったような気もします。この先繰り返し聴く事で新たな理解もあるでしょうし、まだ聴いていない作品に触れながら、また書き換えて行きたいと思います。まだコルトレーンをあまり聴いたことがないという方への一つの道案内になればうれしいです。(2008.11.19)