「電子ネットワークが広げる学びの世界」

小国町立白沼中学校 教諭 今 琢生 
教育センター「山形教育」301号(平成9年3月刊) 掲載 


 インターネット等の電子ネットワークを教育へ活用してみようという試みを始めて一年になる。この間、実に多くの驚きと感動、そして手応えを得ている。同時に、課題と感じることも数多い。

 電子ネットワークは教師の横のつながりも広げてくれる。「山形置賜インターネット教育利用研究会(以下ONCE)」は発足してもうすぐ一年になる。学校現場へのインターネットの導入については、中教審でも取り上げられるなど時間の問題であると思われる現状である。ONCEでは、その有効性について実証的研究が求められていると考え、インターネットに関心を持つ教育関係者が集まり、まずは自主研究のレベルから、新情報技術の研修やそれを活用する研究・実践および成果のとりまとめを行おうという趣旨で活動している。小学校教員から大学教授、県外からの参加者もおり、会員数は現在五十名を越えている。メーリングリスト(会員間の同報電子メールシステム)によって日常的に情報交換を行いながら多くの実践が積まれており、成果も大きい。

 また、会員の勤務校でもホームページを公開するとろが増えつつあり、置賜地区内だけでも十校を数えるまでに至っている。その一つである小国町立小玉川小中学校のホームページは、豊かな自然を満喫する子供たちの生活をふくよかに醸し出すものであるとの評価を得、全国マルチメディア祭ホームページコンテストにおいて優秀賞を受賞している。なかでも飯豊連峰門内岳の登山の感動を詠う全校生徒の創作詩は、生徒のチームワークの良さを目のあたりにするようであると評されている。

 次にONCE会員の実践からいくつかの事例を紹介する。インターネットに代表される電子ネットワークが、教育の現場にもたらしてくれるものを読みとっていただければ幸いである。


地学専門家に支援を受けた理科の学習の例 [詳しくはこちらをご覧下さい]
 (指導者 小国町立白沼中学校 今 琢生)

 本校の周辺には古生代から第三期の地層が順に観察され、地学を志す方々が調査に入ることが多い。生徒がこうした方々と交流を持ちながら学習を進めることができれば、地域の地質的な特性について理解が深まり、知的な刺激も得られるのではないかと考えた。

 この夏地質調査に入った学生グループの研究室や、電子ネットワークを介して教材研究に御協力いただいてきた方々に、指導計画を添えて協力依頼の電子メールを送ったところ、いずれも快く引き受けていただいた。この様に事前に交流学習の見通しを提示しておくことは、ネットワークを利用した交流学習においても重要なことであると考えている。

 火山の単元では、採集した火成岩らしい岩石を観察し既習事項から分類する活動を行い、観察結果と自分の意見を発表し合った。さらに、「私達の分類の仕方が正しいかどうか、学校の外の人にも紹介して見ていただこう。」と話し合い、後日ホームページ上に公開した。実際に目に見えた様子を伝えようと、生徒たちはデジタルカメラ等を使って岩石の撮影に一生懸命取り組んだ。この情報発信に対して、いくつかの詳しいコメントをいただくことができた。これらは生徒の知的好奇心を刺激し、より高いねらいを持って、もう一度観察しようという意欲につながった。着眼点をほめたたえるコメントをいただいた生徒は、専門家の評価を得たことで新鮮な達成感を持ち、さらに学習意欲を高めていた様子であった。いただいたコメントやアドバイスから観点を整理し、再び岩石の観察に取り組んだところ、新たな発見を得ることができた。

 山形大学の川辺先生は、手軽に岩石薄片をつくる方法を自身のホームページに紹介して下さり、この方法でより詳しく調べてみようという取り組みに発展した。岩石薄片の完成後、本校ホームページに載せた顕微鏡写真に対しても、瞬時に詳しい解説を送って下さった。こうして得た知識は教師の立場からも貴重な財産となるものであった。


電子メール機能を利用した国語の授業の例
 (指導者 米沢市立南原小学校 後藤 学 教諭)

 佐賀県厳木町立厳木小学校平之分校の渡辺教諭の呼びかけに対して数校が参加した取り組みである。渡辺教諭がホームページに公開している、四年国語「ごんぎつね」全時間の授業計画、指導案、ワークシートをプリントアウトし活用している。

 授業の中で児童が感想等をまとめたものを、電子メールで渡辺教諭に送付し、渡辺教諭がこれをホームページに公開した。次の時間に児童がこのホームページを見て、自分の考えと他校の児童の考えを比較しまとめるという学習活動を行い、物語の場面毎にこれを繰り返した。

 李山分校の児童は、感想等を自分たち以外の人に読まれることに戸惑いがあったが、自分の書いたものがパソコンの画面に表示されることにだんだん喜びを感じるようになったと言う。日常は三人だけの授業であり、自分の意見を初めの一人が発表すると、他の児童はその考えに同調してそれ以外の多様な考えができなくなるという傾向があったが、このネットワークを活用した学習では、不特定多数の人が自分の考えを読んでいるという意識が働き、以前よりも多様な考えを書き表していたそうである。

詳しくはこちら【学習指導におけるコンピュータとインターネットの利用について 後藤 学】


海外の児童との交流学習の例
 (指導者 中山町立豊田小学校 高橋 章 教諭)

 豊田小学校は国内五十校・海外百校の学校が参加する「バーチャルクラスルーム・オン・ザ・ネット・プログラム」に参加している。この中で、豊田小学校はカナダとエクアドルの学校とチームを組み、十月下旬からお互いの学校や子ども達の自己紹介、共同で制作するホームページ作品のテーマの協議などを行ってきている。

 コミュニケーションを英語でとらなければならないのが最大の問題であるが、英訳・和訳ソフトなども活用しながら英作文を行い、交流を進めているそうである。先進的な取り組みに敬意を表しながら、その成果に期待している。


地域の特徴を比較し合う社会科学習の例
 (指導者 小国町立玉川小学校 色摩和幸 教諭)

 三年生は小国町、四年生は山形県の学習を深めた後、学習成果の紹介として、自分たちの住んでいる地域の特色ををホームページに紹介した。これをよりどころにしながら、県内外の、特有な生活様式を持つ地域の学校とインターネットを介して情報を交換し、地域の特徴の理解を深めていった。他の地域の児童と生き生きと交流することで、子どもたちにより一層郷土への親しみを抱かせるような学習活動にしたいと考えての取り組みであった。

 同じ西置賜地区の学校とインターネットフォンを使って交流する経験を持たせた上で、全国の学校へと交流の範囲を広げていくという段階を踏んだ配慮も参考になる。


望まれるネットワーク活用の環境整備

 学校現場のコンピュータや通信回線等、ハード、ソフトの整備促進を望むところであるが、最近新聞等で取り上げられている個人情報保護の問題についても考えたい。

 条例の解釈の仕方により、学校現場のコンピュータを外部の電子ネットワークに接続することを禁じている自治体も多い。現在の様なネットワーク社会が想定されない時代に制定された条例に縛られているという意見も聞かれる。

 情報教育を進める上で、児童生徒のプライバシーの保護は強く留意すべき事項である。ONCEにおいても、児童生徒個人の名前と顔が一致しないような情報発信を申し合わせる等の配慮を行っており、この問題に関する議論も活発に行われている。学校現場において電子ネットワークを活用するときに参考にできるような、個人情報保護に関するガイドラインの制定の必要性を感じている。

 現在県内にはONCEの他にも「もがみオンラインクラブ」「庄内インターネット教育利用研究会」等の教師個人の資格で活動する電子ネットワーク活用の研究会が存在し、こうした研究会同士のつながりも広がってきている。県内外の教育関係者が地域や校種の壁を取り払って情報交換できるような、公的なシステムの構築を期待している。



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