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トーンデコーダの製作


目次

1.はじめに
2.基本回路
3.FTS−12の改造
4.IC取り外しのテクニック
5.受信機との接続及び動作テスト
6.さいごに
7.参考文献等
8.資料(周波数設定一覧)

1.はじめに

 山形新幹線用列車無線のトーン周波数を調査する為に、トーン
デコーダが必要でしたが、デコーダを内蔵した無線機(受信機)を
持っていなかったので、ユニットを自作してみました。

 一般にトーンスケルチというと専用のIC(松下のMN652
0がよく使用されます。・・・本機を製作した'94年当時。現在は
入手性からセイコーのS7119のほうが多いのでは?)を使うことに
なりますが、私が住んでいるような地方でICを入手するとなると
通販等を利用する以外手がなく、時間がかかり待ち切れなかった
ので、無線機用のオプションとしてメーカーから供給されている
ユニット(ヤエスのFTS−12)を改造して使用しました。

 もちろんICと水晶が入手できれば一から自作する事が可能で
す。

写真1.トーンデコーダ 外観

2.基本回路

 図1にMN6520を使用したトーンスケルチ(トーン
エンコーダ/デコーダ)の基本回路を示します。

 基本的な機能は全てMN6520がやってくれますので、MN
6520をうまく動作させる為の回路と外界とのインターフェー
スをとる回路を追加するだけです。

 出力にアンプを接続すると、トーンスケルチとして動作します
が、今回はトーン周波数を調べる目的で製作したのでトーンを
検出した時にLEDを点灯するのみとし、アンプを接続できる
ように端子を取り付けました。

 また本回路への電源をOFFすると無線機の出力がアンプにそ
のまま伝わるような回路になっています。

 なおMN6520は送信用のトーンを発振する機能も持ち合わ
せていますので、トーンスケルチシステムを本ICで完成するこ
とができます。

 MN6520は、後述の表1に示す37波の周波数のトーンを検出で
きます。表内のS1からS6はDIPスイッチの設定で、ONが0,
OFFが1を示します。表のトーン周波数が順番に並んでいませ
んが,スイッチの組み合わせを2進法を基準に並べましたのでこ
のような形になっています。

 また74.4Hz,79.7Hz,85,4Hz,91.5Hzについては手元の資料に掲載
されていなかったので、送信機で送出したトーン信号により調査
したものです。


3.FTS−12の改造

 今回はヤエスのFTS−12を次のような改造して使用しまし
た。

 FTS−12は、MN6520のトーン周波数を無線機側の
CPUにより設定する為に、CPUとのインターフェースを行う
シリアル・パラレル変換ICの4094が付いています。
 しかし、今回はCPU無しで使用し、トーン周波数をスイッチ
により設定して使用するようにするので、4094は使用しない
ので取り外し、代わりにDIPスイッチを接続します。

 トーンの検出によりLEDを点灯させるようにする為、FTS−
12の外部にトランジスタによるLEDドライバとLEDを
追加しました。
 電源は006P9V電池を使用するので、三端子レギュレータ
による5V電源回路を追加しました。

 なお、本機の心臓部とも言えるMN6520を過入力から保護
する為に、入力側にダイオードを追加しました。


 DIPスイッチは手持ちの都合で6回路が独立した普通のタイ
プを使用しましたが、操作性を考慮するとDIPロータリスイッ
チや、サムホイール・スイッチを使用したほうが良いと思います。
(実際周波数が解らない対象についてその周波数を探すとなると
DIPスイッチでは非常に苦しい!)

・・・実は現在はサムホイール・スイッチに交換済みです。
   入手の都合で10進2桁のスイッチの下位3bitをS1〜S3と
  S4〜S6に接続しています。従って各桁は0〜7が有効な
  設定あり、8,9は0,1のイメージ(同じ設定)になり
  ます。


 なお音声出力でスピーカやイヤホンを接続する場合は、本器の
出力で直接ドライブすることが出来ませんので、アンプ(LM3
86等)を外付けする必要があります。

 FTS−12を使用した回路は図2に示す通りです。

写真2.基板部拡大

4.IC取り外しのテクニック

 ICの取り外しですが、一般にはリードを切断して取り外すと
いう荒っぽい方法がとられますが、表面実装タイプのSOP
パッケージのICでも次のような方法で基板もICもあまり痛めず
にとり外すことができます。

 まず取り外す前に基板にICの1ピンの方向の印をつけておき
ます。(後で1ピン方向が判らなくならないようにする。)

 次にハンダを多めに乗せたコテで片側の列のリード全体に熱を
加えます。この状態で細いマイナスドライバをICと基板の間に
こじ入れるようにします。無理するとパターンが剥がれますので
ハンダが十分に溶けたのを見計らってドライバをこじ入れます。
 なお表面実装タイプは基板に実装する時の都合で、基板とIC
が接着剤により固定してある事が多いと思います。熱を加えるこ
とで接着剤が軟化するのでICが少し熱くなる位のほうが取り外
しやすいはずです。(100度位が目安です。この位の熱ならI
Cが壊れることはないはずです。)

 基板からリードが少し(0.5mm程度)浮いたら反対側の列
に熱を加え同様に行います。この作業を何度か繰り返すと片側の
列が完全に基板から浮いてきます。この状態で不要なハンダを吸
い取るとリードと基板とを接続が完全に離れますから、反対側の
列を熱すると完全に外せます。
 最後に基板及びICに残ったハンダを吸い取ります。

 普通は、ハンダを吸い取り器や吸い取り線で吸いとって外そう
としますが、パターンとICのリードの間のハンダは表面張力で
しっかり間に入り込んでいる為にうまく吸い取ることができず、
なかなかうまく行きません。またハンダを吸い取ってしまうとリー
ドに熱が伝わりにくくなってしまいますから、余計作業が難しく
なってしまうのです。
 一ピンずつ外そうとするとリードを極端に曲げたり長時間熱を
加えることになりパターンもICのリードも痛めてしまいます。

 私の方法はハンダを多めに使用するのがミソです。ハンダを多
くつけて、リード片列全体を一気に熱し、リードを片列ごと基板
から浮かす作業を繰り返すのです。
 ハンダは後で吸い取ればいいのでまずリードを浮かす作業を優
先させるのです。基板からリードが浮いてしまえばハンダの吸い
取りもうまくいきます。

 なお、リードが4方向に出ているQFPタイプはこの方法でも
うまくいかないと思います。(ハンダこてを2本以上用意し
2方向を同時に暖めるとうまくいくかも知れません。)


5.受信機との接続及び動作テスト

 私は受信機としてスタンダードのC401を使用しました。

 一般にトーンデコーダは、検波出力に直接接続します。
 というのも、音を聞きやすくする為に、受信機内部回路で
ある程度周波数特性を持たせてあり、その影響でトーンが
出力に現れなくくなる場合があるからです。

 しかしC401についてはスピーカ出力端子に接続しても十分
検出できるようです。ただしトーン周波数が低くなると、さすがに
周波数特性の影響が現れ、ボリュームを5位まで上げないと検出
できませんでした。


 ユニットの動作確認は、スイッチで周波数の設定が可能なトー
ンエンコーダをもつもう一台の無線機(私が使用したのはTR−
3500+TU−35B)でトーンを送信し、受信機に接続した
本機で検出する方法で行いました。
(その昔VRでトーン周波数を変えるものがありましたが、レピー
タで使用する88.5Hz以外の周波数は測定器がないと調整不可能で
すし、周波数を変えてしまうとやはり測定器がないと元に戻せな
くなってしまいますのでNGです。もっとも最近はそんなエンコー
ダを積んだ無線機は見かけませんが。)

 トーン周波数の一致を検出するとLEDが点灯します。本器の
出力にアンプを接続していれば送信した音声が出力されるはずで
す。
 もし受信機の音量調整を変えてもLEDが点灯しない場合は、
回路に誤りがないか、トーン周波数が合っているかを確認して下
さい。


6.さいごに

 実は、車に積んでいるFT−4700用のユニットFTS−8
を探していたのですが、いきつけのハムショップでは取り寄せな
いとないとのことだったので、店頭にあったものの中でICにM
N6520を使用し、回路図が添付されているものを選んだ結果
がFTS−12だったのです。

 FTS−8を入手していたら、当然FT−4700に実装し、
車載で使用することになっていたはずでしたが、入手したのが別
のものだったので、ユニットを独立させ携帯型にすることができ
ました。

 その結果、列車内に持ち込んでのトーン周波数のチェックや
ゾーンが切替わる場所の特定、ゾーン間の混信についての実態
調査を、実際に列車に乗車して調査することが出来ました。


 今回は列車無線を対象にしましたが、一般の業務無線にも
適用できるのはいうまでもありません。
 一台製作し、本来のトーンスケルチとして使用したり、トーン
周波数の調査などに活用してはいかがでしょうか?


7.参考文献等

 
 ・臼井 正樹/JH3JZH 
  「遠隔操作にも利用できるデジタルスケルチアダプタ」
  モービルハム誌 ’90年5月号 p62〜p64

  ・「取扱説明書 FT−4700/H」
  八重洲無線株式会社

  ・「FTS−12 取扱説明書」
  八重洲無線株式会社


8.周波数設定一覧

 

周波数    DIP-SWでの設定        サムホイール
 (Hz)   S1  S2  S3  S4  S5  S6  SWでの設定
        1 1 1 1 1 1   00
  67.0  0 1 1 1 1 1   01
  71.9  1 0 1 1 1 1   02
  77.0  0 0 1 1 1 1   03
  82.5  1 1 0 1 1 1   04
  88.5  0 1 0 1 1 1   05
  94.8  1 0 0 1 1 1   06
 100.0  0 0 0 1 1 1   07
 103.5  1 1 1 0 1 1   10
 107.2  0 1 1 0 1 1   11
  110.9  1 0 1 0 1 1   12
  114.8  0 0 1 0 1 1   13
  118.8  1 1 0 0 1 1   14
  123.0  0 1 0 0 1 1   15
  127.3  1 0 0 0 1 1   16
  131.8  0 0 0 0 1 1   17
  136.5  1 1 1 1 0 1   20
  141.3  0 1 1 1 0 1   21
  146.2  1 0 1 1 0 1   22
  151.4  0 0 1 1 0 1   23
  156.7  1 1 0 1 0 1   24
  162.2  0 1 0 1 0 1   25
  167.9  1 0 0 1 0 1   26
  173.8  0 0 0 1 0 1   27
  179.9  1 1 1 0 0 1   30
  186.2  0 1 1 0 0 1   31
  192.8  1 0 1 0 0 1   32
  203.5  0 0 1 0 0 1   33
  210.7  1 1 0 0 0 1   34
  218.1  0 1 0 0 0 1   35
  225.7  1 0 0 0 0 1   36
  233.6  0 0 0 0 0 1   37
  241.8  1 1 1 1 1 0   40
  250.3  0 1 1 1 1 0   41
 ( 67.0)  1 0 1 1 1 0   42
 ( 71.9)  0 0 1 1 1 0   43
   74.4  1 1 0 1 1 0   44
 ( 77.0)  0 1 0 1 1 0   45
   79.7  1 0 0 1 1 0   46
 ( 82.5)  0 0 0 1 1 0   47
   85.4  1 1 1 0 1 0   50
 ( 88.5)  0 1 1 0 1 0   51
   91.5  1 0 1 0 1 0   52

 表1.MN6520トーン周波数一覧

注)DIPスイッチでの設定は、「0」がスイッチON,
 「1」がスイッチOFFです。



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