市町村の合併については、地方自治法に手続きが定めれられているほか、さらに「市町村の合併の特例に関する法律」が制定されている。
この法律は、昭和40年3月に「市町村行政の広域化の要請に対処し、市町村の合併を円滑にする」ことを目的として、10年間の現時法として制定されたものであり、その後、昭和50年及び60年に延長されて現在にいたっている。
この法律が制定されてから、既に30年が経過しようとしているが、この間には、高度経済成長を契機として、交通通信手段の著しい発達や日常社会生活圏の拡大など、市町村や住民生活をめぐる状況は、大きく変化している。
また、近年、全国各地で、住民や地域における経済団体側から、市町村の合併に向けた活発な取り組みが見られるなど、市町村の合併をめぐる新しい潮流が現れている。さらに、地方分権の推進の動きにあわせ、地域づくりに主体的役割を果たすべきとの観点から市町村行政の積極的な展開を望む声も高まっている。
おりしも、現行の市町村の合併の特例に関する法律は、平成7年3月31日をもってその効力を失うこととなっており、このような状況を踏まえて、当調査会としては、市町村合併に関する制度などについて、検討を重ねてきた。
その結果、今日における市町村の合併についての基本的な考え方やその進め方、特例措置のあり方などについて下記のとおり結論を得た。
当調査会としては、市町村やその住民が地域の将来像について、自らの問題とし積極的に検討することを期待するとともに、このような市町村や住民の取り組みを国や都道府県が支援すること等により、市町村の自主的な合併を推進していくべきであると考える。
これらを踏まえ、国は、このような感興を整備する観点から、早急に行財政上の支援措置を拡充・整備すべきである。
また、当調査会としては、あわせて、市町村を包括する広域的な地方公共団体である都道府県が、地域全体の発展や住民生活の水準の確保という観点から、市町村の自主的な合併について、より重要な役割を果たすことを期待するものである。
第1 市町村の合併についての基本的な考え方
1 市町村の現状
これまで、わが国の市町村は、住民に 身近な基礎的な地方公共団体として、住民に密着したサービスの提供や地域の特色を生かしたまちづくりなどについて重要な役割を果たしてきた。
しかしながら、いわゆる「昭和の大合併」の後、人口の都市集中と急激な過疎の進行が見られた結果、各市長村の人口規模等の間には、再び大きな格差が生じており、これに伴って、様々な問題も生じている。
例えば、大都市圏では、人口の都市集中に伴い、面積の狭い市が、多数存在しており、都市が有すべき本来の機能が必ずしも十分に発揮されておらず、広域的な調整にも不十分な面が見られる。
また、その一方で、地方圏では、人口が自然減となる市町村が増加しており、最近では、全市町村の半数を超えている。
高齢社会を迎え、市町村による社会福祉など住民に身近なサービスの充実を図る必要性がますます高まっているが、規模の小さい市町村では、必要な人材が確保できない等の問題点も指摘されている。
2 市町村の合併の今日的な意義
現在の「市町村の合併の特例に関する法律」が制定されてから、30年が経過しようとしている。
この間には、高度経済成長を契機として、交通手段の著しい発達や日常社会生活圏の拡大など社会経済情勢の著しい変化に伴い、市町村や住民生活をめぐる状況も大きく変化しており、市町村の合併についても今日的な新しい意義が認識されるようになっている。
まず、この30年間においては、東京一極集中が進行し、国土の均衡ある発展を図る必要性がますます高まってきており、住民の日常社会生活圏を国土形成の基礎的な単位としてとらえ、広域的な地域の復興整備を推進していくことが重要となっている。
このような要請に対処するためには、圏域の中心となる都市が一定の規模や行政能力を有し、地域発展のための牽引力を持つようになることが望ましい。
また、近年、市町村を超える広域的な行政需要がますます増大している。このような要請に適切に対処するためには、広域連合等広域行政制度の活用と並んで、市町村の自主的な合併により対応することが有効な方策であり、両者を必要に応じて、適切に活用していく必要がある。
さらに、地方分権推進の観点から、住民に最も身近な地方公共団体である市町村が地域社会に関する多様な行政を自主的、自立的に展開していくことが重要である。
このため、地方の自主的成長を促すための各種の制度や施策の積極的な活用が期待されているところであり、これらと並んで、市町村の自主的な合併により、地域づくりの主体である市町村の行財政能力がさらに強化されていくことが望ましい。
3 市町村の合併をめぐる新しい潮流
こういった状況の中で、近年、全国各地で、これまでのような行政の側からの動きにとどまらず、住民や地域における経済団体の側から、地域の将来像を自らの問題として真剣に検討する中で、市町村の合併に向けた活発な取組みが見られるようになってきていることについて、注目する必要がある。
こうした動きは、今後、地方分権が着実に実施されていくにつれて、住民の市町村行政に寄せる期待がさらに高まり、一層加速されていくものと考える。
4 市町村の合併についての基本認識
以上のような現在の市町村をめぐる情勢にかんがみると市町村の合併は、地域の一体的な整備、市町村の行財政基盤の強化、豊かな高齢社会を迎えるための社会福祉等住民に身近かな行政サービスの充実等を図るための有効で適切な方策である。
国土の均衡ある発展や地方分権の推進という今日のわが国の内政における重要な課題に対処するためにも、近年、各地で活発化してきた住民の側からの自主的な合併への取組みを積極的に支援していくこと等により、市町村の自主的な合併を推進していく必要がある。
なお、市町村の合併は、関係する地域の将来や、地域のアイデンティティ、住民の生活に大きな影響を及ぼす事項であるから、
その推進に当たっては、住民の共同生活意識の醸成や関係する市町村及び住民の自主的な判断が前提とされなければならない。
第2 市町村の合併の進め方
市町村の合併については、地方主導で、地域の実権に基づき、関係市町村や住民の意向が、十分尊重されて行われるべきであり、
市町村の合併の意義や効果を住民がよく理解した上で、合併を選択できるようにしていく必要がある。
合併市町村のまちずくり等に関しても、できる限り幅広く、住民の意見が反映されることが望ましい。
市町村や住民が、市町村のあり方について自主的に検討できるようにするためには、国や都道府県は、合併の意義や手続、
その効果等市町村の合併に関して十分な情報を提供していくべきである。
特に市町村を含む広域的な地方公共団体である都道府県は、地域全体の発展や住民生活の水準の確保という観点から、
関係市町村の合意形成のために重要な役割を果たすことが必要であり、当該都道府県内の市町村に対して、積極的に
指導、調整や意見交換等を行っていくべきである。
さらに、都道府県は、市町村の合併に際して、将来のまちづくり等に関しても適切な助言を行う等必要な支援を
行う必要がある。
なお、地理的な状況等により、市町村が合併を望んでも、実現することが困難な地域については、広域連合の導入等により、
広域市町村圏の一層の充実、活用を図る必要がある。
また、都道府県や広域市町村圏の中心市等による補完・代行ができるような仕組みについても引き続き検討していく
必要がある。
第3 市町村の合併に係る特例措置について
1 特例措置についての基本的な考え方
現在の市町村の合併の特例に関する法律は、合併の際に障害となると考えられる事項を取り除くために、
議会の議員の定数・在任、地方交付税の算定等関係法律の特例措置そのほかの必要な措置を定めているが、
市町村の合併の特例に関する法律の期限が切れた後にも、市町村の合併について、引き続き法律による
特例措置を講じていく必要がある。
その際には、単に合併の際の障害を除去するということにとどまらず、市町村の自主的な合併の持つ今日的な
意義にかんがみ、市町村の合併に向けた環境を積極的に整備して、市町村の自主的な合併を推進していくという
観点が必要である。
これを踏まえて、市町村の自主的な合併を推進していくためには、市町村の合併が本来持つ効果が、一層確実に
発揮されるよう、行財政上の支援措置を拡充・整備していく必要がある。
2 具体的な措置について
(1) 住民発議制度の創設
市町村の合併を行政のイニシアティブだけではなく、幅広く、住民のイニシアティブにより推進していくため、合併協議会の設置に係る
住民発議の制度を創設すべきである。
(2) 議員の定数及び在任の特例措置の見直し
旧合併関係市町村の住民の意見を合併市町村の行政に一層反映させることにより、合併市町村の均衡ある振興整備を図る等のため、合併後の一定期間認められている議会の議員の定数や在任に関する経過的特例措置について、
その期間の延長等必要な見直しを行うべきである。
(3) 財政措置の充実
市町村の自主的な合併を推進するため、国は、合併に関する財政措置を充実すべきである。
その際には、合併に関する障害を除去するというだけでなく、市町村の合併に向けての環境を整備するため、
合併市町村のまちづくりの推進を図る観点を含めて積極的な財政措置を講ずべきである。
また、市町村の合併を支援するための都道府県の事業についても、必要な措置を講ずべきである。
(4) 市町村建設計画
合併市町村の市町村建設計画については、ソフト・ハードの両面を含めたまちづくり全般の基本方針となるよう、
その名称も含め、より適切なものとすべきである。
また、市町村建設計画については、必要に応じて、都道府県の事業を位置付けることができることとするとともに、
当該計画が広域的な地域振興に資するものとなり、その実効性がより確保されるようにするため、
当該市町村を含む広域的な地方公共団体である都道府県が、合併関係市町村と、実体に即した
調整を行うことができるような措置を講ずべきである。
さらに、合併により旧市町村の役場が廃止されること等に伴い、人口流出等が懸念される地域については、
地域の実状に応じたきめ細かい対策を講じるなど、市町村建設計画の策定上特に配慮すべきである。