紀伊半島を後にする

紀伊半島を後にする

谷瀬の大吊り橋
十津川村の谷瀬橋。日本最大級の吊り橋は住民の生活道路でもある。

 テントを畳んで平瀬キャンプ場を出発する。昨日混んでいた谷瀬の吊り橋にまた寄ってみた。朝早いだけあって、まだ昨日のような長蛇の列はできていない。これはいいぞとさっそく渡ることにした。
 全長270メートル、熊野川にかかる谷瀬の大吊り橋は日本最大級の吊り橋で、十津川名所の一つとなっている。休みになると観光客が次々に訪れる観光名所で、年に一度はこの橋の上で和太鼓を演奏する「揺れ太鼓」という催しも開かれている。
 日本一の吊り橋は同時に住民の生活道路でもある。橋のたもとには通学路だから児童の邪魔にならないようにという表示があった。子供達は毎朝、270メートルの吊り橋を渡って学校へ通っているのだ。それがこの橋の魅力である。
 橋は長いものの堅固で、寸又峡の「夢の吊り橋」のように激しく揺れることはない。とはいえ結構高さがあって、下の河原のキャンプ場が素通しになっていたりするから、怖がって渡れない方や、真ん中まで来て引き返す方もいた。

橋から見る谷瀬の吊り橋キャンプ場
見下ろすとこんな具合。

 「山形からとはえらい遠くから来たね!」

 一往復して駐車場に戻ってみると、大阪の方とおぼしき単車乗りの方に声をかけられた。大阪の単車乗りさんは東北に行ってみたいそうで、「ここから何日ぐらいかかるの?」などなど訊ねられた。そこで「普通に走って三日ぐらいかかりますね。面白いどごですよ。峠巡りと温泉巡りをするなら最高です。」と、東北の魅力を宣伝しておいた。

 関西と東北は遠い。自走するなら間違いなく北海道より遠い。これというのも、関西と北海道を結ぶフェリーは充実しているものの、関西と東北間のフェリーはあまりないからだ。
 たとえば北海道を旅していると、大阪や京都のナンバープレートを付けた単車をよく見かける。オートハウスの常連、大阪さんはそのとおり大阪から来ていたし、カールさんも京都から来ていた。関西から北海道に行くならば、舞鶴港と敦賀港から毎日のようにフェリーが出ている。関西のツーリングライダーにとって、北海道とは、船に乗って一日で行ける場所なのだ。
 ところが東北ではこうはいかない。敦賀港発で秋田港に寄港する船が週に三便のみ(2006年10月現在)。北海道に比べれば格段に行きづらい。ならば北海道に行ってしまおうということになるので、東北は北海道以上に遠いところになってしまうのだ。実際、荒井も山形で、大阪や京都のナンバーを付けた単車はほとんど見たことがない。その逆も又しかり、関西まで単車で自走してくる人間など、旅人ぐらいしかいないのだ。
 いくら日本は狭いというものの、そこに住む人々の往来はこの程度なのかもしれない。

 もう一人、カブに乗ったおっちゃんとも会った。そのカブで北海道も廻ってきたという強者だ。このあたりも昔から走り回っているようで「国道168号線も15年前と比べると、だいぶん道がよくなったよ!」と、国道168号線の変遷を教えてくれた。

大阪のライダーさん カブ乗りのおっちゃんライダーさん
谷瀬橋で出会った方々。左が大阪の単車乗りさんで、右がカブ乗りのおっちゃん殿。

 お二人とすっかり話し込んだので、谷瀬橋を出発する頃には、八時少し前になっていた。国道168号線を北上する。幕末に天誅組が拠点を置いた天辻峠(てんつじとうげ)を少し見物し、さらに山の中を走ることしばらく、目の前に五條市の街並みが現れた。ここしばらく山の中ばかり走っていたので、街並みがひときわ大きく感じられる。ここ数日間なかなかお目にかからなかったコンビニもある。「サークルK」でサンドイッチとグレープフルーツジュースを買い朝食とした。紀伊半島巡りで旅の勘もだいぶん戻ってきた。国道310号線で一山越えれば大阪府、本格的に西日本巡りが始まるのだ。


荒井の耳打ち

冬ごもり

 できればそれなりの期間をとって、じっくり旅したいという方もいらっしゃることでしょう。そういう方の場合、どこで冬を越すかも大きな問題になると思われます。
 冬ごもりの方法で多いのは、南の島、特に沖縄や八重山諸島に渡ることです。キャンプ場や安宿に長期連泊して雪解けを待ち、春になったら本州に戻るわけです。八重山のキャンプ場はそうした旅人が増えるため、夏よりも冬の方が利用が多くなるそうです。中にはその間サトウキビ収穫のアルバイトをして資金を稼ぐという方もいれば、さらに冬はサトウキビ狩り、夏は高原レタス収穫、秋は鮭の加工場と、渡り鳥のように南と北を往復する強者もいるというお話です。
 南国でなくとも、どこかで住み込みのアルバイトをしながら冬を越すという方もいます。特に北海道でこれをすると「越冬組」として、他の旅人から尊敬と羨望の眼差しで見られます。装備を調えれば、厳冬期の北海道でも野宿はできるはずですので、「北海道は冬を知ってこそ!」という冒険精神旺盛な方は、あえて雪国で野宿旅に挑むというのもありです。実際、荒井の知る旅人の方には、厳冬期の北海道を、野宿しながら徒歩で横断したという強者もいます。
 荒井の場合、当初は沖縄で冬ごもりするつもりでしたが、もろもろの事情が重なって、結局一度旅を中断し、地元山形で冬眠していました。一番無難かつ軟弱な冬ごもりです。

前に戻る文頭に戻る目次に戻るトップページに戻る次を読む