台風直撃

竹富島

竹富島の赤瓦置き場
赤瓦いっぱい。竹富島で発見。景観の裏に手入れあり。

 天気予報によれば、また台風が近づいていた。なのに天気はやたらよかったので、竹富島に渡ってきた。

 竹富島は石垣島の西方沖5キロばかりのところにある平べったい島で、ミジンコのような形をしている。徒歩でも半日あれば十分一周できるほど小さいが、赤い瓦の琉球家屋が並ぶ景観など、八重山でも一番人気の島となっている。

 「ホットスパー」でツナデニッシュとパック飲料の簡単な朝食を済ませてから、手近な高速船に乗り込んだ。船内は軽装の若い男女が圧倒的に多い。石垣島に荷物を置いて、日帰りで見物してこようという観光客の利用が多いのだ。かくいう荒井もそうなので、カメラと地図を入れたサブザック以外には何も持っていない。
 島を結ぶ高速船は水上バスのような屋根の低い船で、客室には座席のほか、立ち乗り用の手すりがある。さすが高速船だけあって、港を出て10分ほどで竹富島に到着した。

なごみの塔から見る竹富島の集落
「なごみの塔」から見る街並み。塔のある場所には平家の落人伝説も残る。

 着くなり貸し自転車屋と観光業者の出迎えを受けた。島は観光で成り立っているらしく、ここまで呼び込みに来ているわけだ。観光客はめいめい送迎用の車に乗って、さっそく島の中心部に向かっている。荒井はまず歩いてみようと、徒歩で一人とぼとぼと集落を目指した。
 港から500メートルほど歩くと集落が現れた。港から続いていた舗装路はそこで途切れ、白砂を敷いた路地に変わる。家はみんな赤瓦を戴いた背の低いもので、白い石を積み上げて作った垣根で囲まれている。台風の多い琉球地方ならではのものだ。多くは建てられて年月を経たものだったが、新しい建物も新しいなりに赤瓦と石垣の建物になっている。島唯一の郵便局も見事に赤瓦と石垣だった。集落の片隅にある「なごみの塔」ことコンクリート製の物見やぐらに登ると、ちんまりとした赤屋根が並んでいるのがよく見える。

 長年の風雨にさらされたおかげか、屋根も石垣もくすんでいるものが多い。けっこうな数の廃墟跡も目立つ。崩れたのか取り壊されたのか建物はなく、朽ち果てた石垣の区割りだけが残っていて中は草ぼうぼう、主を失ってずいぶん時間が経つらしい。
 島は国のまちなみ保存地区の指定を受けている。そのおかげで伝統的な街並みに触れられるのだが、管理が大変だとか、老朽化しても増改築が難しいといった、実際に暮らす上では大変な事情もあるのだろう。廃墟にはやむなく島を後にした人々が住んでいたのかもしれない。

西塘御嶽
西塘御嶽。蔵元跡とともに竹富島が八重山の中心だったことを今に伝える。三ツ巴は琉球王朝の紋。

 島有数の名所、西塘御嶽(にしとうおん)は、民家が並ぶ一角にあった。西塘は琉球王朝に仕えた重臣だ。波照間島のオヤケアカハチを平定し、首里城の園比屋武御嶽を作った人物で、その功績が認められ、故郷竹富島を拠点に八重山地方を治めることになった。その西塘を祀っているのがこの西塘御嶽である。
 島の偉人を祀った神聖な場所なのではあるが、建物は黒ずんだコンクリート製である。入り口にはなぜか鳥居が立っている。建物には縄付きの鈴がぶら下がっていて、その下には賽銭箱まで置いてある。首里城で見た園比屋武御嶽に似ているということで、そういうものを想像していたのだが、御嶽というより神社のようだった。この建物自体はおそらく、明治以降に作られたものなのだろう。

 観光客満載の牛車が路地を行き交う。牛車に乗って島を廻る水牛観光は竹富島でも大人気だ。人口300人ほどの小島だが観光客が多いので、みやげ屋や一服できる食堂には事欠かない。さすがは保存地区、多くの店は赤瓦の民家を改装したものか、その軒先で営業しているというもので、下世話な雰囲気はない。そんな中の一つ「ガーデンあさひ」という食堂で、おなじみ八重山そばの昼食にした。どこの食堂でも八重山そばは一番安いしはずれがない。店によって味付けも違うから、食べ比べる楽しみもある。

ンブフル
名前が面白い「ンブフル」。ンブフルとは牛の鳴き声。モーモー塚とでもいうところ。

 歩くのにくたびれたので、民宿「丸八」で自転車を借りた。八重山の離島では、自転車やスクーターを時間で賃貸ししてくれる民宿が多く、島を廻るときに便利である。出てきたのは変速機構なしのママチャリ(注1)だった。平らな島でも起伏はある。普段身体を動かしてないのも手伝って、へーこら言いながら自転車を漕いだ。
 牛が一夜にして作ったという物見塚ンブフル。そのふもとにある仲筋井戸(なーじかー)は犬が見つけたと伝えられている。八重特産ミンサー織の展示が見られる民芸館。隣には年に一度種子取祭(たにどぅりさい)が開かれる世持御嶽(よもちおん)。西塘が役所を置いた蔵元跡、若者であふれかえるコンドイ浜などなど、島のいろんなところを見て廻った。
 竹富島は石垣島からは日帰り圏内で、実際日帰り観光客がかなり多い。歴史と伝統、それを守りつつ暮らす人々。それが竹富島の魅力だが、半日でどれほどが見られただろう。今度来る時はぜひとも一泊以上して、じっくり見てみたいと思った。

 午後になり、台風の影響が出始めていた。いつもはもっと遅いはずの高速船の最終便が、ずいぶん繰り上がって三時発になっていた。早めの便で石垣島に戻ってくると、船を下りた途端にいきなり雨が降ってきた。「また雨ですか?」とまつや旅館に飛び込んだら、くたびれてしばらく昼寝した。

繋留される高速船
船着き場に繋がれた高速船。台風準備は港にとっても一仕事。

 起きると雨は小止みになっていた。離島桟橋に行ってみると、船という船はすっかり厳重に繋留されていた。フェリーニューはてるまは四方から太いロープで岸壁に繋がれていたし、高速船も船着き場に整然と並べられてある。ぱいかじも港の一角に固定されてある。さながら船の見本市だ。これが港の台風準備なのだろう。
 夕食に寄った「南ぬ島」は、時間が早いのか、台風前の静けさというやつか、客があまりいなかった。いつもは人通りがある盛り場さえ歩いている人が少ない。
 宿に戻るとオバーさんに「この部屋は台風になると雨漏りするから。」と勧められ、部屋を移ることになった。おかみさんも「台風に備えて食べ物を買いだめしといた方がいいよ。」と言うので、近所の「ホットスパー」に行ってみるとやたら混んでいた。どの客もカップ麺やらパンやらを多めに手にしている。どうやら皆さんも台風に備えて買いだめに来ているのだ。この分だと、島のスーパーも大盛況に違いない。台風のたびに、島ではこのような光景が繰り広げられているのだろう。籠城する気、満々なのである。


脚註

注1・「ママチャリ」:婦人用自転車のこと。


荒井の耳打ち

高速船と路上駐車

 日帰り観光など八重山巡りをする際は、自転車や単車を石垣島に置いて、他の島に渡ることもあります。離島桟橋の高速船乗り場の付近には、路上駐車している自転車や単車が多いのでそれに倣いたくなりますが、盗難が多いという話です。石垣島で拠点にしている宿など、安心できる場所に預けておくのがよいでしょう。特に泊まりがけになる場合は用心しましょう。

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