行ってきた!

地元の神社
また戻ってきた地元の神社。ついに日本一周に行ってきた。

 「...行ってきたんだよなぁ...本当に行ってきたんだよなぁ。」

 家に戻る前、出発時にお参りした地元の神社に寄った。旅の始まりと終わりには、いつもこの神社で旅の無事を祈願している。そして日本一周の終わりにまたここにやってきたのだが、不思議と感慨がなかった。
 思えば日本一周は小さな目標達成の積み重ねだった。いつものように旅を続けてきて、いつものようにここにいる。何もかもが変わりなく、何もかもが拍子抜けするほどいつもどおりのままである。大歓迎や祝福が待っているわけでもない。大冒険家や名士のようにヒーローインタビューがあるでもない。旅の終わりはたった一人、至って静かなものである。
 正直な話、日本一周したところで何かが大きく変わるということはない。ロールプレイングゲームのように、レベルが上がっていきなり強くなるとか、新しい魔法を覚えるなんてことはない。
 確実に変わったことはたったひとつ、軟弱青年荒井が、日本一周に行ってきた荒井になったことだけだ。

 自分の住む国を隅々まで見てみたい。ならば現に行って確かめるまで。そう決心して日本一周を始め、実際に一周してきた。あれからどのくらいこの国について知ることができただろうか? 実は日本一周した今でも、荒井は日本がどういう国かはよく判らない。海外の方に「日本って、どんなとこだ?」と訊かれても、納得できる答えを用意できる自信もない。自分の力で廻った日本という国は、あまりに様々な側面がある。日本という国は一つの国でもあるし、様々な地域が集まってできた国でもある。単に「日本」という言葉で一括りにできるものではなかった。

 日本は広いという人がいる。だったら世界地図を見るがいい。日本は地球上ではあれほど小さな陸地に過ぎない。無心に走ればたった一日で大分水嶺を越え、水平線を二つ見ることさえできる。最果ての地から世界を望めば、日本がごく限られた場所であることを思い知ることになるだろう。
 日本は狭いという人がいる。だったら本気で廻ってみるがいい。その狭い国さえ、一生かけても廻りきれないだろう。最果ての地から日本を望めば、その奥深さを思い知ることになるはずだ。

 日本は広い。日本は狭い。日本は深い。だから日本は面白い。廻れば廻るほど知るべきことの多さを知る。自分はちょうど日本を一周分走り、ほんのさわりを見てきて、ようやく日本を知るための出発点に立ったような気がする。それは「もっと知りたい。自分の目と足で確かめたい。自分がいる場所を自分なりに理解して説明したい。」という、荒井の探求心の原点を再確認することでもあった。

 結局巡り巡って出発点に戻ってきた荒井は、この旅を通じてたった一言「日本一周に行ってきた。」と言えるようになっただけなのかもしれない。だが、それを実現するために努力の日々があったことも、今の荒井は知っている。
 「日本一周」、自分の力で日本のほぼ全域を廻る。たったそれだけのことだ。だが、たったそれだけのことを実現した人はどれほどいるだろう? たったそれだけのことを実現するため、荒井は決意し、資金を貯め、旅の方法を学び、計画し、単車の免許を取り、職を離れ、そして実際に日本を一周してきた。数々の問題や障害に臆することなく、一つ一つを乗り越えた結果、日本一周を達成したのだ。
 憧れを形にするためには、ほんの少しの勇気と状況を見極める冷静さ、そして何より尽きない情熱が要る。それが「絶対に叶えるぞ!」という強固な意志となり、地道な努力を重ねる力となる。言うなれば荒井は日本一周で夢の叶え方とでもいうものを学んだのだ。
 憧れだけでは夢は叶わない。「やればできる」じゃない。やらなければいつまで経ってもできないのだ。いつまでもうだうだと「日本一周に憧れてね...」と言い続けるよりは、たった一言「日本一周? 行ってきた!」と言い切れるほうがずっといい。そのために行ってきたのだ。

 最後に一つ、旅が終わったらどうするかという問題もついに現実のものとなってしまったが、日本一周を終えると、不思議と不安はなかった。これからの具体的な考えはないが、おぼろげな夢ならある。 今度はそれに向かっていけばいいじゃないか。この旅では行く先は大雑把に決めて、詳しい道筋はその都度現地で調べた。それと同じように進んでいけばいいんだ。大丈夫、それで日本一周を成し遂げた自分のことだ。紆余曲折はあれど、絶対何とかするだろう。第一、進まなければ何も変わらないことは、この旅で証明してきたことじゃないか。最初から最後までを自分の力で成し遂げたことは大きな自信となり、荒井のかけがえのない財産となった。
 この日本一周は、荒井が自分の人生の基礎を固めるために必要な過程だったのだと思う。それは壮大な物語の予告編を見るような旅だった。

 2003年9月10日正午。こうして荒井の日本一周は成就した。
 後半の走行距離は約2万4721キロ。所要日数143日。22の県庁、旧国38国。一の宮50社を廻った。
 そして通算走行距離約4万8791キロ、所要日数266日。1都1道2府43県の都道府県庁。旧国73国、一の宮90社、日本の最東西南北端を巡った日本一周の記録は、これでおしまいである。


 どれだけの原野を駆け、どれだけの岬を廻っただろう? あれからいくつもの街や峠を駆け抜けてなお、道の果てはまだまだはるか向こうである。
 たった一言、「行ってきた!」 あれからたった一言言えるようになっただけだが、これが言える違いは大きい。

DJEBEL200の距離計


荒井の耳打ち

お礼の手紙を出そう

 旅から戻ったら、旅先でお世話になった方々にお礼の手紙を出しましょう。「お世話になりました。ありがとうございます。」程度の内容で構いません。礼儀というのが第一なんですが、お礼を言われて嫌な人はいませんし、期せずして返事が返ってきたりすると自分にとっても嬉しいものです。お礼をされたならば、また別の旅人にも親切にしてくれることでしょうし、ひいてはそれが後々旅を志す人のためになるかもしれません。
 とはいえ毎度、荒井はお礼の手紙を出すのが遅れるものだから、我ながら自己嫌悪になるというか。

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