来日まもない子どもを受け入れた学校では、「○○○語がわからないので、日本語を教えられない」というような言葉がよく聞かれますが、子どもの母語がわからなくても日本語指導は可能です。ALTの先生が英語だけで英語の授業を進める場面をイメージしてください。
子どもたちが、第二の言語として日本語を学ぶための教材も、様々なものがあります。子どもの発達段階によって、教材や指導法は大きく異なりますので、外部機関や日本語指導の経験のある方に相談してください。
また、日本語がわからなくても、クラスの授業にまったく参加できないというわけではありません。言葉がわからなくても、体育や音楽、美術などの実技科目や、給食・清掃などの時間をクラスで過ごすことで、学校生活に慣れ、また子ども同士のかかわりの中から、たくさんの言葉を学ぶことができます。小学校高学年以上で、ある程度母語が確立している場合には、辞書や翻訳教材を使うことも可能です。
文部科学省では、「日本語指導が必要な外国人児童生徒」を、「日本語で日常生活が十分にできない児童生徒および日常生活はできても、学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じており、日本語指導が必要な児童生徒」と定義しています。
一般に日常生活に必要な『生活言語』の習得には1~2年、学習に必要な『学習言語』の習得には5年以上かかると言われています。子どもたちは日常生活や遊びの中でたくさんの言葉を覚えますが、学習言語の習得はそれほど容易ではありません。日常会話ができるようになっても、継続して言葉の指導が必要です。
また、日本で生まれた子どもたちや乳幼児期に来日した子どもたちの言葉の力についても注意が必要です。家庭内の言語環境によっては、小学校の入学時までに獲得した言葉の数が、他の子どもたちに比べて著しく少なく、授業中の先生の話がよく理解できていないケースが少なくありません。例えば、日本語の誤用が見られる、知っている単語の数が極端に少ない、先生の問いかけに対する反応が遅い、周りの子どもの様子を見てから動く等の行動が見られたら、日本語力を確認してください。支援が必要な場合には、できるだけ早期に支援を始めた方がよいでしょう。まずは個別に指導してみるとともに、外部機関に相談しましょう。また、外部支援者の活用や、サポートチームの必要性を検討してください。
現在山形県では、外国から来た子どもたちを特別枠で受け入れるという制度はありませんが、公立高校・私立高校ともに個別に学校に相談することができます。(公立高校の場合は、進路等相談制度を利用してください)個別相談では、子どもが抱える特別な状況・来日後の努力・成長、子どものもつ潜在能力などを高等学校に説明することが重要です。ただし、対応は個々のケースによって異なりますので、あくまでもその都度個別に相談することが必要です。また、「入学者選抜試験」が免除されるようなことはありません。どの子どもも日本語を勉強し、教科の勉強をし、日本の他の生徒と同じように試験を受けなければなりませんので、本人の努力と保護者の理解・協力が不可欠です。公立高校の進路等相談制度については、山形県教育委員会高校教育課(023-630-2774直通)にお問い合わせください。私立高校については、各学校にお問い合わせください。
学校の取り組みとして、重要なことは主に次の2点です。
日本語指導を充実させましょう。高等学校に入学するまでに、少なくとも友だちと会話できるだけの日本語力を身につけておくことが必要です。また、数学や英語など、得意な科目がある場合は、その科目を伸ばすように支援しましょう。自分で学習する習慣が身についている生徒には、翻訳した教材(参考URL参照)を提供するなど、学校でもさまざまな支援が可能です。クラスの授業では、ゆっくりはっきり短い文で話す、板書や教科書にふりがなをつける(一部でも良い)、具体物を用意するなどの工夫が、生徒の理解を助け、学習意欲を高めることにつながります。
普段から保護者との連携を密にし、家庭の状況や保護者の考え方などに対する理解を深め、互いに信頼関係を築いておくことが大切です。外国にルーツをもつ子どもたちの進路は非常に多様で、保護者の来日理由や家庭環境に大きく左右されます。一年以内に帰国することが決まっている場合や、さまざまな理由で高校に進学させることが難しいケースもあります。子どもたちにとって、もっともよい進路選択ができるよう、本人や保護者と、十分に話し合うことが大切です。
日本(山形)の高等学校に進学する場合は、高校入試の制度について十分に情報を提供してください。学校内の進路説明会や面談時には通訳派遣を要請し、重要な情報を正確に伝えるよう配慮しましょう。子ども本人に通訳をさせたり、日本人の父親あるいは日本人の母親へのみ説明したりするだけでは、正確に伝わらない場合があります。
小さい時に外国から来た子どもたちは、日本語の習得に伴い、母語忘れが始まります。来日時の年齢が低いほど顕著で、やがて親とコミュニケーションがとれなくなったり、日本語ができることに優越感を持ち、子どもに比べて日本語の習得が遅い親をばかにしたりすることもあります。日本になじもうとすればするほど、母語だけでなく母国にかかわるすべてを否定しようとする場合もあります。
母語は親とのつながりを認識し、親子のコミュニケーションを保つ大切な言葉です。来日後、日本語学習を優先し、家庭でも母語を使わず日本語で話すことを強要するようなことは避けてください。むしろ、家庭では母語を話す、母語で書かれた本を読むなど、母語を保持するよう働きかけることが大切です。
個人差はありますが、子どもがアイデンティティーを確立しようとするころ、母語や母文化と向き合う時期が訪れます。子どもの母語や母文化を尊重し、本人が自信をもって語れるように働きかけましょう。
子どもが母語をほとんど忘れてしまった場合、進路指導や生徒指導などの際には保護者に対する通訳を要請し、みんなで十分に話し合いができるように配慮しましょう。
Q2でも述べましたが、「学習言語」の習得には非常に長い時間がかかります。山形県では、以前は、日常会話ができるようになると、ほとんどの場合日本語指導の必要はないと判断されていました。学習に必要な日本語力が十分でないまま学習が進み、時間がたってしまうと、やがて学習に支障をきたすようになり、多くの場合、本人の能力の問題とみなされてきました。
このような子どもたちに共通して見られるのは、学習に必要な言葉の力が足りないということと、学ぶ力が身についていないということです。わからない言葉がたくさんあり授業が理解できない、理解に時間がかかる、理解が浅い、言葉の意味を間違って覚えている(内容理解がずれる)、読解力が足りない、言葉からイメージできない、表現できない、記憶できないなどの傾向がみられ、学習した内容が定着しにくくなります。
年齢が高くなればなるほど、こうして積み重なった課題を短期間に解決することは難しくなります。ですから、できるだけ小学校入学当初から、必要な支援を始めることが大切です。中学生になって、教師がそのことに気づき、支援を始める場合、まずは子どもの気持ちを確かめることが大切です。本人が、放課後補習などの支援を受けることを望まない場合もあります。子どもが希望する場合は、まず個別に補習をしながら、何をどう進めるか判断します。わからない言葉の意味の確認、読解や作文など直接の支援だけでなく、学習の仕方について助言したり、学ぶことの意味を理解させたりするような働きかけが重要です。
子どもが日本国籍の場合、外国にルーツがあることに気づかれないまま、支援対象から外れている場合があります。小学校入学時に幼稚園や保育園から申し送りがない場合、家庭訪問の時に初めて保護者が外国出身であることを知ったというケースもよくあります。また、国内の学校からの転入では、それまでの詳細な記録がない場合があり、支援対象からはずれる場合があります。家庭訪問や懇談会、面談などで、保護者が外国出身であることがわかった場合には、子どもに支援が必要かどうか把握し、必要な場合はできるだけ早く必要な支援を開始することが望ましいでしょう。