コラム4「こどもの母語が必要になるとき」

 この先、長期に日本で生活することが前提になっている場合、外国人児童生徒の成長にもっとも必要な言語は日本語で、母語はもはや出る幕はないのでしょうか。

 実は、必ずしもそうとは言えません。それは、子どもの母語が年齢に見合った発達を遂げていたり、あるいは、母語で一定程度の文章表現ができたりする場合です。

 生活に必要な日本語は、友だちとの会話などを通して比較的早く身につきます。しかし、学習に必要な日本語の習得には5年から6年かかると言われています。この間、日本語学習を優先させ、母語の使用を制限したり、母語よりもはるかに習得の遅れている日本語だけで教科学習をさせることは、子どもの母語力を後退させ、母語に対する自信を喪失して不安になったり、自分の気持ちや考えを言葉で人に伝えることができずイライラするなど、子どもの成長にマイナスの影響を与える場合があります。

 このような状況を回避し子どもの年齢に相応しい成長を促すには、来日時に、日本語力や学力だけでなく母語の能力も確認し、その結果によっては、母語で書かれた文章を読む、母語で作文を書くなど、母語を用いた学習支援が有効だと言われています。それには外部機関や外部支援者との連携が不可欠です。外部支援者との連携により、日本語と並行して母語でも作文を書かせてみると、日本語よりもずっと伸び伸びと書くことができ、内容も生き生きしたものであることがわかり、先生の子どもを見る目が変わったという例も報告されています。また、母語で書かれた文章を読ませて母語で話し合ったり、母語による心のケアをしたりしたことが、子どもの人格形成に大きな役割を果たしたという報告もあります。自信を持って自分を表現する言語を持つことで、子どもの自尊感情も守られ、成長していくということを示唆しているのではないでしょうか。

 外部支援者との連携の他に、母語による読み聞かせ、母語での会話、母語での読み書きの機会を増やすなど、家庭との連携も非常に大切です。こうした家庭内での工夫は、親子のコミュニケーションの機会を増やし親子関係にも良い影響を与えることでしょう。

 国境を越えて移動する子どもたちの教育は日本全国で模索が続いている段階ですが、その先進的な取り組みとして、大阪府門真なみはや高校では、中国にルーツを持つ子どもたちが母語である中国語を学び続けられる環境が整えられているそうです。山形県では、子どもの母語習得にまではなかなか目がいきにくい状況ではありますが、子どもの母語の発達は、人格形成や認知発達と切り離せない関係にあること、母語が年齢相応に発達することが日本語の上達にも繋がっていくことに留意しておきたいと思います。

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