[Listen] 10 CD to know John Coltrane

John Coltraneを知るCD10枚

 ジャムセッションに参加した際,若いプレーヤーとの会話から思いつきまして,レジェンド、ジョン・コルトレーンを知ってもらうための10枚を選定してみました。トレーン縁の曲はジャムセッション等でも頻繁に演奏されていまして、一通りトレーンを聴くことはジャズプレーヤーとして必要なことの一つでしょう。自己のスタイルを探求しながら突き進むトレーンの世界を楽しみましょう。各年代の代表的録音と思えるものをリストアップしてみました。

 

1 'Round About Midnight (Miles Davis) 1955~1956年

 ソニー・ロリンズが雲隠れ中のため,代わりにマイルスバンドに抜擢されたトレーンが参加しています。2曲目のAh-Leu-Chaがマイルス・デイビスとの初録音のようです。マイルスに続く2コーラスのソロは実に端正に組み立てられています。Dear Old Stockholmのソロ中ではWhile My Lady Sleepsのメロディーを引用しています。この後、代表的な引用ネタとして著名なテナー奏者達がアドリブ内に組み込んで演奏しています。よくトレーンを無骨な硬い音色という人がいますが、どうなのでしょうか。冒頭タイトル曲を聴くと,マイルスが吹くテーマのメロディーに重ねたオブリガードから,実に豊かで心地良い音色です。しっかり味わって欲しいものです。収録曲は'Round About Midnight All of You Bye Bye Blackbirdなど、50年代中期のトレーンが楽しめます。
 マイルス・デイビスの同メンバーでのプレスティッジ マラソンセッション4枚はセッション曲の源泉です。Relaxin(If I Were A Bell Oleo It Could Happen to You 他)Workin'(It Never Entered My Mind Four In Your Own Sweet Way Trane's Blues Half Nelson 他) Cookin'(My Funny Valentine Airegin Tune Up 他)Steamin'(Sault Peanuts Well You Needn't 他)

 

2 Coltrane Prestige 7105 1957

 初々しい感じのジャケット写真、2枚目は30歳トレーンの初リーダー作品です。マットデニスの名曲 Violets for Your Furs は、この頃のトレーンのバラードでの表現技法を深く味わえる名演です。Balladsなどインパルス時代のバラード演奏と比較して聴くのも面白いでしょう。コンビネーション・オブ・ディミニッシュ(HWディミニッシュ)の使い方のお手本にもなる演奏です。引用メロディーとして流行らせた曲、 While My Lady Sleepsも収録しています。同日(1957年5月31日)に録音された I Hear a RhapsodyはなぜかLush Lifeに収録されていますが、このアルバムの一部と思って愛聴しています。人気盤 Blue Train(Blue Train Moment's Notice 他) Soultrane(Good Bait I Want Talk About You Theme for Ernie 他) も同路線のアルバムと言えると思います。

 

3 At Carnegie Hall (The Thelonious Monk Quartet) 1957年

 50年代後期、57~59年あたりは録音が多くて、多彩なジャズメンとの共演を聞き比べることができます。その中でも、モンクとトレーンの深い関係はジャズ雑誌等でよく語られるネタであり、そのライブの素晴しさは伝説となっていました。2005年、ラジオ放送のために録音されたテープが発見されCDとして世に出されました。演奏内容の凄まじさでは、妻のナイーマが録音していたという翌58年のライブ Live at the Five Spot Discovery(The Thelonious Monk Quartet) (In Walked Bud I Mean You Epistrophy 他)の方が上ですが、録音状態を考えてこちらを選びました。ギター好きな方はKenny Burrel & John Coltrane(Freight Trane Why Was I Born 他)、ビブラフォンならBags & Trane(Three Little Words 他)と共演楽器で聴いたり、マイルス、ビルエバンスとの1958Miles(On Green Dolphin Street Stella by Starlight Love for Sale 他)やKind of Blue(So What All Blues 他)、タッドダメロンとのMating Call(Soultrane 他)、キャノンボールアダレイとのCannonball Adderley Quintet in Chicago (Cannonball Adderley)(Stars Fell on Alabama Wabash You're a Weaver of Dreams 他)など、好きなジャズマンとの共演を選ぶのも良いでしょう。

 

4 Giant Steps 1959年

 マイルスから離れ、溢れるアイディアを試すかのような意欲作をリリースし続けたアトランティック時代です。コルトレーンを知るという意味では、コルトレーンチェンジで衝撃を与え、名バラッドNaimaでうっとりさせる、初の全曲オリジナル作品Giant Stepsと、タイトル曲で人気を得たMy Favorite Thingsの2枚を選びました。さて、タイトル曲Giant Stepsはコルトレーンチェンジが醸し出す浮遊感とアップテンポの疾走感が素晴しい演奏です。コルトレーンチェンジについてはある程度取り組んでみていますが、正直いうとアルペジオ練習用の上級者エチュードのように感じて辛くなります。いつか人前で演奏してみたいと思いながらウン十年が経過しています。Countdownもやたら速くて難しくて、演奏者としてはちょっと近寄りがたい世界です。この次にリリースした作品、歌心溢れるMy Shining HourやLike Sonny Some Other Bluesなどを収録しているColtrane Jazzの方がリラックスしていて楽しく聴けるかもしれません。

 

5 My Favorite Things 1960年

 My Favorite Thingsは高校2年生のときにFMラジオ(NHK軽音楽をあなたに)で聴いたのが初めてでした。YMOからインストに入ってボブジェームス等のフュージョンに目覚めた頃、たまたま耳にしたこの曲に妙に引き付けられたことを覚えています。ペダルトーン上でモーダルに響くソプラノサックスの浮遊感に引き付けられたのでしょう。聴く者の感性に訴えてくるところが広く人気を呼んだのだと思います。深い絆で結ばれるマッコイ・タイナ−、エルビン・ジョーンズが参加しての初レコーディングです。スタンダード集みたいに見えてまったく違う雰囲気なのが特徴的です。アトランティック時代の他の作品でもスタンダードチューンが多く録音されていますが、コルトレーンチェンジを組み込んだり、独自のリハーモナイズをしたりと、二ひねり三ひねりもされていて、その辺を聴くのも面白いところです。大成功もあれば、やり過ぎだなーと感じるものもありますがどうでしょう。ひねり過ぎて曲名を変えたりもしてますので、わかる範囲で並べてみようと思います。Countdown(Tune Up)〔Giant Stepsに収録〕 Fifth House(Hot House)〔Coltrane Jazzに収録〕 My Favorite Things Every Time We Say Goodbye Summertime But Not for Me〔My Favorite Thingsに収録〕 The Night Has a Thousand Eyes Liberia(A Night In Tunisia) Body and Soul Satellite(How High The Moon) 26-2(Confirmation)〔Coltrane's Soundに収録〕 トレーン流ブルース集Coltrane Plays The Bluseも味わい深いです。

 

6 Live at the Village Vanguard 1961年

 1961年11月1, 2, 3, 5日の4日間のライブ録音から選りすぐりの3曲が収録されたアルバムです。ソプラノで演奏されるSoftly As In A Morning Sunriseの吹きっぷりに感動して、Chasin' The Traneでこの頃のブルーススタイルに浸りましょう。このアルバムでトレーンの魅力の一つであるスピリチュアルな高揚感にはまると、4日間にわたるライブの全容が知りたくなります。この4日間の記録であるThe Complete 1961 Village Vanguard Recordingsはトレーンファンなら持っていたいセットです。曲目、メンバー、テンポなど、その全様から、ライブが表現の場であるとともに実験の場であったことも伺えますし、よく言われているEric Dolphyからの影響その他についても、聴き取れるように感じます。アップテンポなピアノトリオにソプラノで乱入しモーダルに吹きまくるここでのSoftlyの演奏スタイルは、翌1962年11月オーストリアでのライブ盤The Complete Graz Concert Vol1.2のAutumn Leavesでも聴くことができます。

 

7 Ballads 1961~1962年

 トレーンのバラッド演奏が胸にグッと来るそのツボはどこにあるのか、数々のテナー奏者達が研究を重ね、譜面や解説となって世に出ています。 そうした資料を手に入れ、眺めながら聴いたり真似てみたりするのも楽しみの一つです。オリジナルメロディーを大切にした実にシンプルで絶妙な歌い方に感動させられますし、そのニュアンスは後続する著名なテナー奏者のバラッド演奏の随所からも聴き取ることができます。ファラオ・サンダースはその代表選手といえるでしょう。曲目 Say It You Don't Know What Love Is Too Young to Go Steady All or Nothing at All  I Wish I Knew What's New? It's Easy to Remember Nancy 同年録音のColtraneに収録されているバラッドSoul Eyesも同様の魅力を持つ演奏です。

 

8 Crecent 1964年

 1961年以降はヨーロッパツアーを繰り返し、そのライブ音源が多く出ています。アメリカとヨーロッパを往復する中で上記のColtrane(1962年) Ballads(1962年) Duke Ellinton & John Coltrane(1962年) John Coltrane & Johnny Hartman(1963年)といったアルバムが録音されています。ヨーロッパやアメリカでのライブでは激しい演奏だったようですが、これら一連のスタジオ録音は対照的とも言え、インパルスの売れ筋静寂路線だったという説もあるようです。そうした流れの延長上にあるのがこのCrecent(1964年)かもしれません。しかし、なんと言うか、訴えて来るものが違います。美しく深く緻密で濃い、至高の芸術作品であると言ってしまいましょう。学生時代に初めて聴いたときから変わらず大好きで、コルトレーン作品を1枚選べと言われたらこれ、特にタイトル曲は何度聴いても引き込まれます。ちなみに、この頃の数あるライブ盤から1枚選ぶとすれば、ニューポート・ジャズ・フェスティバルでのライブ、Newport'63になるでしょうか。静寂なスタジオ録音盤との対比として聴いてみるのも面白いと思います。

 

9 A Love Supreme 1964年

 ジョン・コルトレーンの最高傑作と呼ばれる作品、日本版のタイトルは「至上の愛」、この崇高なネーミングに聴く前から身構えてしまうかもしれません。Supremeを英和辞書で引いてみるとやはりそういう意味の言葉らしく、トレーンの思い入れの程を想像できます。マイナーブルースのPursuanceなど、4パートからなるこの組曲を通して聴いた後「A Love Supreme」と繰り返し呟くようになれば、もう立派なトレーン信者の一人です。ヘッドフォンを付けて一番最後に現れるオーバーダビング左右二人コルトレーンに身悶えるのもいいでしょう。アシュリー・カーン著、「ジョン・コルトレーン『至上の愛』の真実」を読めば、さらにその世界に浸ることができます。これからこのCDを購入しようという方にはCD2枚組みデラックス・エディションをお勧めします。2枚目に収録されている1965年の仏アンティーブ・ジャズ・フェスにおけるライヴ音源を初めて聴いたときは腰が抜けそうになりました。

 

10 Transition 1965年

 アマチュアテナー吹きとしては1960年ぐらいまでのトレーンが比較的参考にし易いこともあり、A Love Supreme以降の作品にはまだ聴いていないものもあるのですが、強力なインパクトを与えてくれるこの作品を本企画の締めくくりに選びました。嵐のようなタイトル曲Transitionには、それまでの激しさとまた一味違う魅力を感じます。スタジオ録音でここまで高音域を駆使した演奏があったでしょうか。このこと一つ挙げてもトレーンの演奏技術がどんどん進化していることがわかります。音の綴りを追っていると、マイケル・ブレッカーはこの頃のトレーンからかなりの影響を受けていたのではないかと思えてきます。激しさの後は、トレーンのベスト・バラッドともいえるDear Lord(日本版にのみ収録)でうっとりさせる、この対比もたまりません。3曲目Suite - a) Prayer and Meditation - Day b) Peace and After c) Prayer and Meditation - Evening d) Affirmation e) Prayer and Meditation - 4 AMは20分を超え、A Love Supremeの様な組曲となっています。ここでのトレーンの音色を聴いているとハードラバーのマウスピースを使っているように聞こえますが,いかがでしょう。

 

 読み返してみて、1955年から65年まで、たった10年間の作品群であることに驚いています。その間、凄まじいスピードで進化していたことを再確認しました。こんな風に整理してみることでますますコルトレーンが好きになった気がします。この先繰り返し聴く事でまた新たな理解も生まれることと思います。まだコルトレーンをあまり聴いたことがないという方への道案内の一つになればうれしいです。

 

2007〜2008年に旧サイトに掲載したものを再構築しました。

2022年01月20日